夢洲カジノは世界に誇るIRか、それとも巨大なパチンコ屋か、計画書を読んで検証した

 現在、大阪で特定複合観光施設 (いわゆるIR)の誘致が本格的に走り出そうとしている。設置運営事業予定者がMGM・オリックス コンソーシアムに決まり、その計画案が公開されたのである。

「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」(案) (以下本計画)

 

さて、IRの肝は、皆様ご存知の通りカジノであろう。実際、本計画でも、収益の約8割がカジノ部門によって占められると想定されている(本計画要求基準4 1/3)。

最近、大阪府知事大阪市長が、「年間1,070億円の納付金が府市に入ってくる」と熱弁しているが、果たしてそれが達成され時、そのカジノはどのようなカジノになっているのだろうか。

そこで、本稿ではIRの是非などを一旦抜きにして、この計画書通りに順調に事業が進んだとして、どのようなカジノになるのかについて、試算を見ながら考えていきたい。

 

0.入場制限などの法令

 本計画書の内容に入る前に、まずは 関連する法令1による規定を確認する。
まず、20歳未満の者は、カジノ施設への入場を認められない。
また、日本人や日本に住居を持つ外国人には、次の制限がある。

A: 6,000円の入場料を課される (24時間以内なら退場、再入場は自由。24時間が経過す
    ると、再び入場料を払う必要がある)

B: 7日間の入場回数は3回以下

C: 28日間の入場回数は10回以下

 

日本人が1年間に入場できる回数を計算すると、最大121回となる。

なお、入場料は6,000円だが、これは国と都道府県に3,000円ずつ納付される。
また、カジノの売り上げには、競馬やパチンコと同じように納付金が発生する。
この納付金は、国と都道府県に対して、
ゲーム粗収入 (GGR*)の15%ずつと決められている。

 

*GGRとは

簡単に言うと、お客さんがギャンブルで負けた金額の合計である。
例として、次の単純なケースを考える。

10人の客が現金を100万円ずつチップに変え、色々なゲームで遊び、最後に換金する。
2人は200万円になり、残りの8人は50万円に減った。
この時のGGRは、 (50万円 x 8 )- (100万円 x 2) = 200万円である。

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GGRとはギャンブルの勝ち負け金額の総和である

 

カジノのゲームは基本的にカジノ側が儲かるようにできているので、お客さんの数が余程少なくない限りGGRがマイナスになることはない。
ただし、これにはディーラーの人件費やカジノの維持費は含まれていないので、
GGR = 利益ではない点には注意。

 

1. カジノ施設の規模

 

 暫定計画値で、カジノ施設全体の延床面積は65,166㎡(東京ドームの約1.4倍)、
そのうちゲーミング区域(ルーレットやスロットなど、カジノゲームを行う区域と、運営管理や監視を行う区域)は23,115㎡である(本計画要求基準2 1/2)。

なお、ゲーミング区画は法令2によってIR施設全体の総床面積の3%未満に制限されている。暫定計画の総床面積は770,525㎡で、その3%は23,115.75㎡なので、限界までゲーミング区域を取っていることがわかる。

因みに、2019年末のコミックマーケットの企業ブースとして使われた東京国際展示場の青海展示場が23,240㎡だったので、コミケの企業ブースが丸々賭場になっていると想像してもらえるとわかりやすいかもしれない。大きさ的には世界最大級と言っていいだろう 。

 

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2019年冬コミの企業ブース。この会場全体が賭場になる計算だ
(写真はコミケットHPより転載3

 

  カジノゲームとしては、テーブルゲーム (ルーレットやバカラなど)470台、電子ゲーム(スロットやビデオポーカー、ビデオバカラなど)6,400台を設置する予定である(本計画要求基準2 1/2)。
デーブルゲームの数はシンガポールマカオなど、成功モデルとされている大型カジノと同じくらい~やや少ないくらいであるが、それらのカジノにある電子ゲームは1,000~2,500台程なので4, 5、6,400台というのは物凄い数である。
日本最大のパチンコホールでも3,000台6なので、電子ゲームだけでもその倍の規模になる。

6,400台の電子ゲーム台それぞれに1人ずつ座り、470台のデーブルゲームそれぞれで平均10人がプレイするとして、一度にプレイできる最大の客数は約1.1万人である。

(1テーブルでプレイできる客の数はゲームによって異なる。ブラックジャックやミニバカラで7人、椅子を使わないクラップスやルーレットで最大16人ほどであるが、VIPテーブルの場合は1テーブルあたりの人数は最大値よりも大幅に少なくなることだろう。電子ゲームの種類や台数のカウントの方法、テーブルの配分が分からないのではっきりしたことは言えないが、何をどう頑張っても同時にプレイできる人数は2万人に満たないだろう)。

 

 カジノ施設は3層構造を予定しており、各層がレートによって区分されるようである(本計画評価基準14 2/3)。

第1層はマス・ゲーミング・フロアで、賭ける金額の少ないゲームが配置される。恐らく、電子ゲームの大半はこのフロアに配置されるだろう。

第2層の1部はプレミア・ゲーミング・フロアとなっており、マス・ゲーミング・フロアよりも賭け金が多いゲームが配置される。多くのテーブルゲームや、レートの高い電子ゲームが配置されるだろう。

そして、第2層の残りと最上層は、VIPゲーミング・フロアとなる。この層では、静かさやプレイバシーを保つために他のフロアよりもテーブル毎のスペースを取り、個室も多く用意されることだろう。
この層には超高額賭け金のテーブルゲームが置かれることになる(レートは不明だが、マカオシンガポールなどのカジノでは、1回に2,000万円を賭けることができるテーブルも存在する)。

 

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かなりざっくりとしたカジノのフロア構成 のイメージ(本計画評価基準25 2/17)

 

 

2. カジノ来場者

 日本人と外国人を合わせたカジノ来場者は、開業3年目期に年間約1,610万人(1日当たり4.41万人)を想定している(本計画要求基準4 1/3)。
算出根拠については、「国内人口、国内旅行者数、訪日外国人 旅行者数等の直近の推移、先行する海外IRにおける集客実績等を踏まえて試算した結果」らしい。

なお、夢洲よりも6 km大阪市中央市街に近い(夢洲に行くためには橋を2回渡る必要がる)ユニバーサルスタジオ・ジャパンの2019年の来場者数は1,450万人である7。施設の大きさを加味すれば(USJのパーク面積は43万㎡)、
カジノ内入れるのは20歳以上に限られることも合わせて、USJなど比較にならないくらいの人気スポットであると言えるだろう。

因みに、現在ゴミの埋め立てとコンテナターミナルとして利用されている夢洲ではあるが、上下2車線ずつしかない此花大橋と夢洲大橋が「万博のために」6車線化され、立体交差点ができ、さらにコスモスクエアから地下鉄が延伸されるので、現在コンテナを積んだトラックだけで渋滞ができる脆弱な交通アクセスも、開業時には改善されている・・・らしい。

 

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「万博の為の」夢洲交通網整備

 

3: 入場料と納付金

知事や大阪市長が言う年間1,060億円というのは、
カジノへの入場者が払う入場料と、カジノが売上から収める納付金の合計1,060億円の試算のことである(本計画要求基準17 1/3)。
では、この金額が大阪に入って来るとき、カジノはどうなっているか、それぞれ見ていこう。


3-1. 入場料

 本計画では、大阪府大阪市に納付される入場料を年間320億円としている(本計画要求基準17 1/3)。入場料が納付されるのはあくまで大阪府と国であるが、大阪府は府に納付された額を市と折半する計画である。

前述の通り、府が受け取る入場料は日本人、在日外国人1人当たり3,000円であるため、ここから1年間に何人の日本人又は在日外国人がカジノに来ることが計画されているかがわかる。計算するとその数は1,066万人であり、1日当たりに換算すると2.92万人である。
さらに、総来場者数が1,610万人であるから、外国人の客数が年間544万人、1日あたり1.49万人であることがわかる。日本在住者と外国人訪日者との比率が2:1であり、インバウンドの成功例とされているシンガポールのカジノにおけるシンガポール人と外国人の比率と(1:2、 2016年)真逆であるため8、ターゲットとして日本在住の人を重視していると言えるだろう。

 

  ところで、1日平均の全入場者数は4.41万人で、これはカジノの最大プレイ人数の400%程であるが、当然毎日同じ人数が来るということはない。
外国人旅行者はともかく、日本在住の客は平日の特に昼間は少なくなり、休日前の夜から増えることになるだろう(世界中のほとんどのカジノは夜の方が賑わっている)。

2022年のカレンダーベースで、年末年始の休みを前後3日ずつ、お盆休みを8/11-14とすると、平日は245日、休日が120日である。
平日の日本在住の客数が8,000人少なく、日本人2.12万人、外国人旅行者1.49万人の合計3.61万人(平均値の約82%)とすると、休日の入場者数の合計はUSJの収容定員である6万人に到達する。
このケースだと、休日には客が平均4時間くらいで総入替になるくらいの回転率が求められることになる。その場合、平日でも稼働率は300%を超えるので、少なくとも夜は平日でも満員になっているだろう。
そして、日本人は入場料6,000円を払う必要があるから、この回転率を達成する客層は、お金に余裕のある高給サラリーマンか、わざわざ6,000円払って入場し、直ぐに負けてそのまま帰ってくれる行儀の良い人たちが大半だと考えられる(あるいは、関西のテレビで維新とIRを絶賛する吉本の芸人か)。

 なお、外国人が夢洲へ最寄りの国際空港(関西国際空港)からタクシーなりハイヤーで向かう場合、走行距離は47.4 kmあり、早くても40分はかかる(グーグルマップで計測)。
一方で、海外にある外国人から人気のカジノは、空港から遠くても20 km未満にあるところが殆どである(例をあげると、MGMが運営するカジノで、ラスベガスのベラージオは空港から約5.1 km、マカオのMGMマカオは空港から9.1 kmである。他の会社のカジノでも、シンガポールのマリーナベイサンズは空港から9.4 km、少し遠いワールドリゾートセントーサでも空港から16.7 kmである)。
外国人から見た立地の面で海外のカジノに完敗しているが、それでも何故か年間500万人を超える人が「ここにしかない最高のエンターテイメント(本計画評価基準1 4/6、コンセプトより)」を求めてカジノへやってくるのだという。

 

3-2. 納付金

 本計画では、大阪府大阪市に納付される納付金を年間740億円としている(本計画要求基準17 1/3)。前述の通り、府に入るのはGGRの15%なので、ここから想定されるGGR、つまり客の負け金額の合計は4,933億円となる。

これは、パンデミック前に世界で最も売上が高いカジノであったギャラクシー・マカオのGGR (約5,972億円、2019年9)には及ばないものの、シンガポールにある2つのカジノのGGRの合計 (約3,685億円、2019年10)よりは多いため、世界的に見てもかなりの高収益カジノになるという予想になっている。

なお、ギャラクシー・マカオも、シンガポールのカジノも、収益の33%~47%は少数のVIPによるものである9, 11。VIP無しには目標のGGRを達成するのは難しいので、これまで海外のカジノに行っていた日本のお金持ちがこぞって集結していることだろう*。

 

*VIPについて

 少し詳細に言うと、VIP部門のGGRについては、数字をそのまま日本に適用するのは不可能である。
特に、マカオのVIP部門の稼ぎの大半はジャンケットと呼ばれる、顧客の斡旋、接待、賭場の運営、賭け金の貸し出しなどを引き受ける業者の力が必要不可欠だからである。

特に賭場の運営と、賭け金の貸し出しは重要な要素である。海外で超高レートのギャンブルをする為には、それ相応の現金を持ち出さないといけないが、殆どの国では、入管の際に一定以上の現金を持ち込む時は、税関に申告が必要である(日本だと100万円分以上12)。
クレジットカードでもチップを購入できるが、その場合の3~5%の手数料が必要になる上、1億円があっという間に動く世界では、利用限度額無しのブラックカードでもない限り厳しいだろう。

そこで、ジャンケットにお金を借りて(あるいは出国前に払って)専用のチップを購入し、そのジャンケットがカジノから借りている専用のVIPルームでゲームに興じるのである。この専用のチップは、VIPルーム以外で使えない上に一度賭けないと換金もできず、VIPと胴元の間を行き来することからローリングチップと呼ばれる。負けが込んで元金が無くなれば、追加でシャンケットが金を貸し出す
10年以上前に大王製紙の当時の代表取締役であった井川意高が100億円以上をカジノで負け、会社の金を横領した事件が話題となったが13、こんなことが起こるのも、カジノで負けた客にその場で金を貸し出すジャンケットがいたからである。

しかし、中国当局は、資金の流出を防ぐ為にジャンケットへの取締を強めており、2015年に規制の強化を強めると、兆円単位で売り上げが減少した(下図、10億香港ドルは現在約140億円)。マカオの圧倒的なGGRは、ジャンケットによって支えられて来たことは明らかである。

 

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マカオのGGRの合計とマカオへの来訪者数。赤矢印が中国当局の取締強化の時期で、
大きくVIP部門が減少していることがわかる
(グラフはマカオの統計局2010-2019年のデータより作成14)。

 

シンガポールは、ジャンケットによる賭場の運営は許可していないが、斡旋や賭け金の貸し出しは、政府が認めた業者に限り許可している。
日本では現在外国人来訪者への賭け金の貸し出しやカジノ以外に賭場の運営を許可する方針は無いため15マカオシンガポール程の海外VIPの売り上げは期待出来そうに無い。

 

4. ここまでのまとめ~大阪府市に年間1,060億円が入ってくる時、何が起こるか~

 大阪府大阪市が主張する府市にカジノから年間1,060億円が入ってくるということは、まとめると、

「誰もいない現時点でも交通渋滞を引き起こしていたゴミ埋め立て地兼コンテナターミ

ナルである、関空から40 km以上も離れた僻地の夢洲が、カジノができただけで、年間

1,610万人が訪れるようになり、開発によってアクセスは極めて良好になり、競合カジノ

を押しのけて世界中から観光客やVIPが訪れまくって毎日カジノにお金を流してくれて、

日本人は6,000円取られるけどそんなことは気にしないジェントルマンが数時間で有り

金を溶かして帰っていき、夜な夜な仕事終わりの高収入サラリーマンが睡眠時間を削っ

てゲームをし続け、日本の社長さんやお金を持て余した芸能人がこぞってVIPルームに

訪れ連日億単位の金を賭けてきて、世界最高水準の売上を誇る日本最大級の人気ス

ポットになった

ということである。 まるでライトノベルタイトルのようだ。とても夢のある素晴らしい計画であるといえよう。


なお、この夢物語を語る際には、カジノで負けたお金で買えていたはずの物やサービスが買えなくなる事によるIR区域外への消費抑制効果や、そもそもIRというビジネスモデルがカジノに客を釘付けにして、全ての消費をIR内でさせるので、儲かるのはIR業者だけで、周辺への経済効果は殆ど無いことについては触れてはいけない。

 

 仕事も家庭もある高収入のサラリーマンであっても、夜な夜なカジノに通い、終電や始発で帰る、そんな人が溢れる大阪、かつて大阪府知事時代、橋下徹氏が

「ちっちゃいころからギャンブルを積み重ね、勝負師にならないと世界に勝てない。猥雑なものやエンターテインメントはすべて大阪が引き受ける16。」

と言っていたが、これが実現したならば、橋下氏が理想とした世界が到来したと言っていいだろう。

 

5. 何故か3倍近くになったカジノ入場者

 カジノ関係のところだけをピックアップしてみたが、他にも地震津波対策、オンライン化が進んだ事によるMICE設備への需要の低下の懸念など、他にも気になることはいくつもある。

 実は、入場料や納付金、来場者数について、府市は2019年2月12日、第17回副首都推進本部会議で公表された数字17を2年以上用いていたのだが、事業者が決まってからカジノ関係の数字が上方修正され、それ以外の数字が下方修正されたのであった(下表)。

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カジノ関係の数字の推移(表は上記会議資料3-2と本計画書から計算・作成)

 

ご覧の通り、特にカジノへの入場人数が大幅な増大を見せている。大阪府市IR推進局は、住民説明会において、試算の根拠と変更の理由、並びにその変更理由が書かれていない理由について問われた。それについてのIR推進局の回答は以下の通りである18

「まず、納付金、入場料の金額の違いでございます。 2019 年の、おっしゃっておられました700億円は、我々、大阪府・市がめざす姿として、大阪IR基本構想というものを策定し、大阪府・市として試算した数字でございます。今回の計画(案)に記載しております 1,060 億円につきましては、事業者が自らの知見等をもって試算したものでございまして、試算している主体が異なっているということですので、両者を単純比較することは、適切でないかと考えております。」

回答になっていないが、とりあえず、今回の試算は事業者によるものだと言いたいらしい。また、筆者が問い合わせたところ、大阪府市は、計画書上の数字について、了承している、つまり、数字を出したのは事業者側だが、大阪府市として、ある程度あり得る数字だと考えているということだった。

仮に事業者側の数字の方が正しいのであれば、自分達が出した数字が事業者からしたら全くの検討違いだったという、自身たちに対しての無能宣言であり、さらにそんな数字を2年以上使い続けていたことについて、変更を周知する努力をしないという不誠実・無気力ぶりである(本気でIRを推移したいのであれば、自分たちがIRのポテンシャルを大幅に過小評価していたことになるので、変更箇所のまとめと理由の説明資料くらい作ればいいだろう)。

 府市に収益の見積もりが出来ないことは大阪市廃止の住民投票の際にも明らかだったので、回答には期待していなかったのだが、しかしこの数字を事業者が出してきたと聞いた時は正直驚いた。事業者がこんな滅茶苦茶な試算を出して来るとはあまり思っておらず、てっきり大阪府市(か維新の会)が要求する数字を出したと考えていたからだ。

 

6. 夢物語の崩壊

 しかし、そんな筆者の疑問を解決してくれたのは、他でもない設置運営事業予定者であるオリックスのCEO、井上亮氏であった。
氏は、2021年11月4日、オンラインで行われた2022年月期第2四半期決算説明会において19、IR計画について、コロナという不透明性がある中で、大阪府市が2019年に発表した数値を上方修正したのは何故か、また今後の費用対効果などの見通しはどうなっているか」という趣旨の質問を受けた際に、全ての答え合わせとなるような返答を行っていた。以下に全文を書き起こす。

「MICE・IRのこの数字は基本的には大阪府市が作成したものに対して我々がどこまでいけるかの数字で、基本的に仮置きだと思ってください
元々インバウンド等を勘案した上で数年前からやっていましたけど、今は、客は全員日本人。日本人だけでどこまで回るか、その前提でプランニングを作っています。
これも非常に難しい計算ですけども、10年、20年、何年くらいこれやれるか、っていうのがありますけども、十分10%以上のIRRは回せる、ということを前提にこの試算をしております。
MGMは我々の試算の約倍の数字を出してきていますけど、これはもう、私どもはあんまりアテにしないで。我々のコンサバティブな数字を作った上で、日本の投資家だけで、日本の顧客だけで、やってみて、そのくらいのレベルになるだろうということで進めているというふうにご理解ください(リンク元動画57:07-58:18)。」

  衝撃的な言葉が並んでいるが、一つ一つみていこう。

 

「数字は仮置き」

この一言だけで、この計画書を読むことが無意味であることがわかるだろう。全ての試算はもちろん不確実なものだが、それにしても「仮置き」は強烈である。
普通「推計値」とか「誤差を多分に含む」とか言いそうなところを「仮置き」、
即ちそれっぽい数字を当てはめているだけだと答えたわけである。

 

「客は全員日本人」

インバウンドとはなんだったのかと言いたくなる。

本計画書内の 区域整備計画の意義及び目標の、「観光立国を実現するためには、世界中から新たに人・モノ・投資を呼び込むIRの導入は不可欠である」という意義に反しており、目標の(評価基準 1 2/6)、

(1) 世界水準のオールインワンMICE拠点の形成、

(2) 国内外からの集客力強化への貢献、

(3) 日本観光のゲートウェイの形成

のいずれも満たさない。

筆者も、IRというのは収益率の高いカジノが主体であり、その他の施設はカジノに人を呼び込む為か、法律上の規制の為に仕方なく運営しているというIRのビジネスモデルについては重々承知しており、この辺りの記述は行政文章の定型句として書いているのは分かるが、これで通るなら行政の役割とはなんなのかと言いたくなる。

なお、海外からの集客と収益化が難しいのは先の述べた通りで、それをアテにしていないオリックスの試算は営利企業としては真っ当である。最も、分かった上でこのような計画書を行政に提出するのは、社会にとっては不利益であるが。
名目上の目的であった世界からの投資を捨て去ってしまったら、そのIR施設はもはや巨大なパチンコ屋と大差ない

 

「10年、20年、何年くらいこれやれるか、」

一見取り上げるべき箇所に思えないかもしれないが、実に驚くべき発言である。というのも本事業の土地賃貸契約年数は35年+延長30年なのである(本計画要求基準4 1/3、11 1/2)。
ということはオリックスとしては契約満了前に本事業を売却、廃業する可能性を検討しているということである。その後の発言と合わせて、利益が不十分であれば事業を手放す算段のようだ。

 

「MGMは我々の試算の約倍の数字を出してきていますけど、これはもう、私どもはあんまりアテにしない」

MGMはどこからその自信が出てくのか是非説明してほしい。
MGMの中で最も売上がいいのはマカオ部門である。現在マカオで2つのカジノ (MGM Macau, MGM Cotai)を運営しているが、そのGGRは合計でも3,800億円程度であり、
しかもジャンケットの寄与を抜くとこの数字はさらに1,000億円以上ダウンする。テーブル数も、2つのカジノを足せば(530台)、夢洲の予定(470台)を上回っているにも関わらず、だ(ついでに、スロットのような電子ゲームが、テーブルゲームに比べて収益率が非常に低いことがわかるだろう)。


ジャンケット全盛であった2013年でも5,000億円(内3,000億円以上はジャンケットの寄与)であったのに、どう計算したら今後日本で、一つのカジノで1兆円近いGGRを叩き出すつもりだろうか。

 

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MGM China社のGGRとゲームテーブル数の推移 (2010~2019Annual reportより作成20)

 

MGMとオリックスとの齟齬も気になるところである。そもそも、事業者同士ですら意見が合っていない物に対して、府民パブリックコメントを求めるのはやめて頂きたいものだ。

 

7. 結論

 つまり、今回の計画は、

「計画書一応作りましたけどただの仮置きなので意味はありません。作るのは色々なゲームを遊べる巨大なパチンコ屋です。そこに大量の日本人を毎回6,000円払わせながら集め、お金を搾り取ることによって、事業者は少なくとも儲かります。もし儲からなかったら辞めます。」

ということだ。事業者にとっても、推進する府市と維新の会にとっても、さらに大阪府民にとっても、この計画自体が大博打である。
そして、これが現状最大の、そして唯一と言っていい大阪の成長戦略なのだ。

 

「パチンコ屋が私達の最大の成長戦略です。」と胸を張って言えるのであれば、それでいいかもしれない、だが、そうでないなら、こんな杜撰とすれいえない計画は捨て去った方がいいだろう。

 

<Reference>

1. 特定複合観光施設区域整備法

2. 特定複合観光施設区域整備法施行令第6条

3. https://www.comiket.co.jp/info-a/C97/C97AfterReport.html

4: https://s28.q4cdn.com/640198178/files/doc_financials/2019/ar/LVS-2019-Annual-Report.pdf

5: https://s22.q4cdn.com/513010314/files/doc_financials/annual/2019/2019-MGM-Annual-Report.pdf

6. https://www.p-world.co.jp/saitama/rakuen-oomiyashinkan.htm

7. https://www.teaconnect.org/images/files/TEA_369_18301_201201.pdf

8.https://www.city.osaka.lg.jp/shikai/cmsfiles/contents/0000391/391879/12.21.pdf

9: https://www.galaxyentertainment.com/uploads/investor/6f8376152529e2bcfe0c5998b25aabd2e088b9cf.pdf

10: https://www.ggrasia.com/singapore-casino-revenue-75pct-of-2019-in-2022-fitch/

11: https://s28.q4cdn.com/640198178/files/doc_financials/2019/ar/LVS-2019-Annual-Report.pdf

12: https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/keitaibetsuso/7305_jr.htm

13: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%8E%8B%E8%A3%BD%E7%B4%99%E4%BA%8B%E4%BB%B6

14: https://www.dsec.gov.mo/en-US/Home/Publication/MacaoInFigures

15: https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ir_promotion/ir_kaigi/dai7/siryou3.pdf

16: https://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-11-03/2010110304_02_1.html

17: https://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/cmsfiles/contents/0000461/461104/05_shiryou3-3syusei.pdf

18: https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/42379/00000000/situgigaiyo2.pdf

19: https://www.irwebcasting.com/20211104/1/acaaca0bee/mov/main/index.html

20: https://en.mgmchinaholdings.com/IR-Annual-and-Interim-Reports