夢洲地盤問題と「カジノはIRの3%」について

今回は短く、大阪IR計画について最近よく聞く2つの問題に答える。

 

夢洲は軟弱地盤で、すぐに液状化する?

→港湾局の見解では、IR建設予定地に特段の軟弱性はなく、高層ビルの建設は可能

 過去に夢洲の土壌について調べが足りないまま軽率な発信をしてしまったことを反省し、今一度調べてみたが、調べていても余計にわからなくなった。確かなのは、最も夢洲の土壌に詳しいはずの港湾局の見解は一貫しており、

 

  • 他の人工島 (咲洲舞洲)に比べてIR建設予定地が特別に液状化しやすいなわけではなく、適切な対策を行えばIR施設は建設可能である。
  • 液状化対策は本来事業者が行うものであり、過去の例でもそうしてきたので、IRだけを特別扱いすることはできない。
  • 政治的な観点から大阪市液状化対策のための費用を支出することには反対ではないが、その場合はIR実現という政治的な観点を明確にした上で支出する。

 

となっている。資料を順番に見ていくと、夢洲の地盤を問題視しているのはIR推進局と事業者であり、土地管理者である港湾局は、土地に特段の問題があるわけではないので、大阪市が費用を支出するのであればそれは政治的な観点を明らかにしなければ公平性が保てないとしている。

 

双方の見解は真っ向から対立しており、真偽の程は不明であるが、可能性としては、

  • 事業者とIR推進局側が正しく、大阪市夢洲の地盤を改良する必要がある
  • 港湾局側が正しく、夢洲の地盤に対する支出は、事業者が通常支出すべき範囲である

のどちらかであり、また(2)の場合、

(2-a)これまでの通例通り、事業者が費用を負担する

(2-b)政治的な観点から、大阪市が費用を負担する

のいずれかになる。

しかし、(1)の場合、何故そのような土地をIRの候補地に選び、そして調査も工事もせずに放っておいたのかという疑問が残り、(2-b)の場合はこれまで公金をIRには使用しないと嘯いていた維新の会の説明と矛盾する。

 

また、事業者との基本協定に地中障害物の撤去、土壌汚染対策及び液状化対策について、市は実務上合理的な範囲内において最大限協力する、とあり (13条の2)、また契約解除の条件の一つに13条の2 で定める市会による債務負担行為の議決が行われなかったとき、とあるので (19条 (4))、(2-a)の立場を市が取った場合は、契約が解除される可能性がある。

 

いずれにせよ、現時点ではこの問題に対して断定するのは避けた方が良さそうだ。現在夢洲の土壌については調査がなされており、計画を審査する国土交通省大阪市に説明を求めているようなので、その結果を待ちたい。

 

カジノの面積はIR全体の3%未満であり、IRのことをカジノ呼ばわりするのはミスリーディング

→3%未満なのはゲーミング行為区域で、カジノ施設は全体の8.5%と、物販施設 (全体の6.5%)よりも大きい

 そもそもIR全体の3%未満に制限されているのはゲーミング行為区域でありカジノ全体ではない。ゲーミング行為区域は、カジノ施設から次の区域を除いたものである。

 

一チップの交付等又は法第七十三条第十項の規定による交付に係る業務を行うための室(以下「ケージ」という。)

二バウチャー払戻機を設ける部分

三法第六十八条第一項各号に掲げる措置に係る業務を行うための室 (筆者注: ギャンブル依存症防止のためのオフィスなど)

四法第百十一条第一項の苦情の処理に係る業務を行うための室

五顧客のための案内その他これに類する用途に供される部分

六専らカジノ行為区画内関連業務の用に供される部分 (筆者注: カジノで提供される飲食に関わる部分や、歌謡ショーその他の興行をする業務を行う部分)

七通路、階段(その踊場を含む。)、エレベーター、エレベーターホール及びエスカレーターその他の専ら通行の用に供される部分

八便所

九美術品その他これに類する物品の展示の用に供される部分

健康増進法(平成十四年法律第百三号)第三十三条第三項第一号に規定する喫煙専用室及び健康増進法の一部を改正する法律(平成三十年法律第七十八号)附則第三条第一項の規定により読み替えられた健康増進法第三十三条第三項第一号に規定する指定たばこ専用喫煙室(カジノ行為の用に供されるおそれがない室に限る。)

十一前各号に掲げるもののほか、カジノ行為の用に供されるおそれがないものとしてカジノ管理委員会が認める部分

(カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則第九条)

 

カジノ施設でこれらの区域に該当しない部分といえば、監視施設と実際にゲームが行われている部分くらいである。暫定計画では、この面積を23,115㎡ (全体770,525㎡の2.9999%)と限界ギリギリまで取っており、他の面積を削っても (当初の計画に比べ、ホテルの部屋数と展示場の面積が削減された)、ゲーミング行為区域は削らないという事業者の意志が見て取れる。

 

面積65,166㎡のカジノ施設は、(公表されている世界のカジノ面積が、日本のゲーミング行為区域にあたるのか、それともカジノ施設全体のことを指しているのか不明なものが多いとはいえ)間違いなく世界最大級であり、世界水準のIRを謳う推進派からしたら誇るべきポイントであるはずなのだが、このフレーズを言うのは決まって大阪IRに肯定的な人物なのは不思議である。

 

そもそも、全体に占める大きさと施設の重要度が結びつくのであれば、会議場 (計画延床面積36,875㎡)、展示場 (同31,455㎡)、魅力増進施設計5ヶ所 (同11,150㎡)、夢洲シアター (同13,338㎡)、飲食施設 (同12,478㎡)などは全てカジノ以下の優先順位となり、
重要なのはホテル (3施設合計289,437㎡)と事業者のバックヤード(合計125,866㎡)、駐車場 (合計110,989㎡)となってしまうが、そんな馬鹿な話はないだろう。

 

売上の8割をカジノで上げるという計画ならば、収益の大半を占める施設に注目が集まるのは必然である。このような詭弁を使わずに、堂々と
「世界最大級のカジノで、世界最大級の売上を出します!」
と宣伝すればまだ潔いのだが。

 

 

 IRの審議は今年に入って6回 (1月3回、2月1回、三月2回)行われているが、まだ結果は出ていない。統一地方選が終わるまで、判断を先送りにすることが決定したそうだ。

nordot.app

審議内容は決定まで非公開なので、具体的に国がどの程度計画を精査しているのか、どこを問題視しているのか分からないのが辛いところだ。

個人的には国の判断は地方選関係なくつけてもらい、審議の内容が公開された上でその内容について議論した方が良かったと考えている。残念ながらIRについては問題点を理解していない層が多く 、吉村知事の人気や維新の票固め戦略を相手にIRの是非で戦うのは厳しいのではないだろうか。

IR誘致を地方選の争点にしたことが反対派にとって悪手にならなければ良いのだが。