IR総括: 日本のIRが抱える根本的問題と大阪独自の問題について

 過去3回に渡って、大阪IRの問題点を、事業者や大阪府市が提示した資料を元に指摘してきた。

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今回はそれらのまとめとして、どうしてこんな無理な計画になってしまったのかという点について私見を述べる。

 

 

簡単にまとめると、

 

1.国の方針がしっかりと定まっておらず、IRの関連法案がお粗末であること

 

2.大阪府市・維新が夢洲で開業することにこだわったこと

 

3.そもそも、維新と事業者が、本気でIR開業に取り組んでいないこと

 

以上の三重苦により、こうなることは半ば必然であったように思える。それぞれについて詳細に語っていこう。

特に、3番目については、大阪府市と事業者が交わした大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書の内容から読み取れるのだが、この内容が大阪の没落を加速させるものとなっている。

 

1.国の方針がしっかりと定まっておらず、IRの関連法案がお粗末であること

 そもそもの話として、外国人観光客を増やし、インバウンドに期待するという姿勢自体に問題がある。2005年に観光立国推進基本法が施行され、観光立国が国策になってから、特に第二次安倍内閣において、政府は観光に大きく力を注いだ。

2012年には年間1,000万人以下であった訪日外客数は、2019年には年間3,188万人まで増えた

 

最も、この時期に世界全体の国際旅行者数は10億人から14億人へと増加しており、世界的に海外旅行客が増加した波に乗った結果ではあるのだが。

 

さて、インバウンドは、経済成長にとってどれほど重要であろうか。2019年の訪日外国人旅行消費額は約4.8兆円であり、この年の名目GDP (約560兆円)の0.86%に当たる。

訪日外客数が836万人であった2012年では旅行消費額1.8兆円 (名目GDPの0.36%)であったため、確かに観光客の増加によってインバウンドが経済に占める割合は増加しているのが、日本の経済規模に対して、インバウンドが占める割合は遥かに小さい

 

カジノやMICEの議論を進めていく中で、最も参考としたのはシンガポールだが、シンガポールは東京23区ほどの面積しかなく、人口は600万人、名目GDP (2019年)は約41兆円という、同じ資源が乏しい国と言っても、日本とは全く規模の異なる国である。

 

国土が狭く、地方自治体が存在しない都市国家であるため、IRの導入に際して、国を挙げてのインフラ整備が可能であった。そのシンガポールでも、観光業の年間収入はGDP5~6%程度である。もし日本が本当に観光立国になるとしたら、それは観光業が発展したときではなく、日本が落ちるところまで落ちて観光くらいしか産業がなくなったときである。

 

パンデミック前にインバウンドが伸びていたのは、日本の物価上昇が海外の物価上昇に比べて緩やかであり、相対的に外国人旅行者が安く買い物ができていたことが大きい。中国人旅行者による所謂「爆買い」は、まさにこのような状況が生み出したものである。つまり、インバウンドが儲かる条件は、日本の物価が相対的に安いことであり、これは一般的な意味での経済成長 (賃金が伸び、物価も緩やかに上昇する状態)とは相反するものである

 

また、インバウンドは社会情勢の変化に非常に弱いことも無視できない。2022年3月を生きる我々は、パンデミックや戦争を通してインバウンドの脆弱性を学んでいる最中である。この10年で最も増えた旅行者は中国人であり、これまでのインバウンドは、中国人旅行者に依存していると言っても過言ではない。これからもこのような姿勢を取り続けるのが本当に正しいか、今一度考え直す必要があるだろう。

 

 

 日本においては、国で目標を掲げるなどはしたが、基本的に実務については地方自治体に任せている (IR事業についても、国は法律の整備や事業申請の承認を行うだけである)。

では、その法律が、世界から観光客を呼び込むことを念頭において設計にされているかというと、それは非常に疑わしい。

 

具体的な事業の状況を把握せず、推進者やカジノ、IR事業者が提示するデータを鵜呑みにして、「儲かるのであれば」という軽い気持ちで法案を通してしまったとしか思えない

 

例えばラスベガス中でも最も収益の良いストリップは約50のIR施設が密集しており、それぞれの施設が特色のあるエンターテイメントショーを提供している。意外に思われるかもしれないが、ラスベガスストリップの売上の内、ギャンブリングの占める割合は34%に過ぎない。ラスベガスはギャンブルだけではなく、総合的なエンターテイメント都市を数十年かけて形成した。ただカジノがあるだけで儲かっている訳ではないのである (なお、ストリップにあるカジノ全てのGGRを足しても2019年の数字で約7,200億円である)。

 

シンガポールについては先ほど述べた通りであるが、加えてジャンケット業者 (シンガポールでの呼び名はインタナショナルマーケットエージェント)による客の斡旋、資金の回収を行なっている。また、カジノ事業者は外国人観光客にお金を貸し出すことができる。

 (過去記事参照)

 

マカオは、賭博が禁止されている中国本土からの圧倒的な需要と、ジャンケット業者よる賭場の運営により、ラスベガスストリップの約6倍のGGRを約40のカジノで叩き出していた。しかし、ここ数年ジャンケット業者への取り締まりが厳しくなり、パンデミックの影響も相まって、売上はパンデミック前の水準に戻る兆しはない。マカオの売上の90%はカジノであり、マカオの人口は60万人程度であることからも、マカオがギャンブルに特化した都市であることがわかるだろう。

 

一方で日本は、安易にカジノとMICE施設と抱き合わせてIR施設として、「カジノではなくIR」という方便で法案を通してしまった。あくまでカジノはIR施設の一部という建前なので、カジノ施設の他に1~5号施設 (国際会議場、展示場、日本伝統文化・芸術などによる観光の魅力増進施設、送客施設、宿泊施設)を必ず建設し、カジノ行為を行う区画は全体の延床面積の3%以内という制限をつけた。

elaws.e-gov.go.jp

法規制によって、国際会議場や展示施設、送客施設といった、カジノ事業者からすれば不要な建物を建設せざるを得ず、しかしカジノ行為区域を確保するため最低限の大きさにはしなくてはならない。

これにより、初期投資が嵩む。膨張した初期投資を回収するためには、カジノの売上を伸ばすしかない。しかし、地方自治体は、過去に失敗した僻地の再開発を目論むので、アクセスが悪くジャンケットも法律で禁止されているので、外国人による消費は期待できない

ならば日本人から巻き上げるしかないが、ギャンブル依存症への形だけの対策として、日本人からは6,000円の入場料を課し、少しばかりの入場制限を設けたため、日本人がパチンコや雀荘感覚で短時間訪れるシナリオも現実的ではない

 

以上のように八方塞がりである。多くの事業者が、法規制の詳細が明らかになるにつれて次々に撤退していったのも頷ける。立地を考えると神奈川がぎりぎりのラインで、地方都市に開業する時点でまともな事業の成功は望めない 。

 

強調しておきたいのが、ここでいう事業の成功とは、日本や地方自治体にとっての成功は別にして、IR事業者が投資に対するリターンを回収できることである。ギャンブルによる悪影響は、世界的に軽視されており、「責任あるギャンブリング1」の大義名分の元、この40年各国でギャンブルへの規制は緩和され、責任は国から、ギャンブル中毒者という個人へと転嫁されてきた。

あくまで問題はギャンブルにのめり込んでしまう人々なのであって、そのような人に対する (形ばかりの)ケアさえ行なっていれば、事業者は責任を果たしたことになるし、行政も事業者が基準を満たしていれば、後は知らないふりである。

 

近年のギャンブル業界の発展は行政の事業者との癒着と腐敗の成果であり、根本的に無責任で腐敗した政治組織と相性がいい。日本のカジノの進め方は、まさに国と地方自治体、さらに参入する自治体の責任放棄の結果であると言っていい。

しかし、そんな考えで、日本のような規模の経済圏でカジノを含んだIRが成功するはずもない。本当にIRを推進したいのであれば、そもそも国が下手な誤魔化しを行わず、責任を持って法整備を行い、事業の成功に必要なインフラ整備の長期整備計画を実施すべきなのだ。国が地方自治体に、地方自治体が事業者に丸投げすれば、得をするのは事業者と、腐敗した政治家だけである。国益にはなり得ない。

 

 

2.大阪府市・維新が夢洲で開業することにこだわったこと

 1.で述べた問題に、大阪では夢洲が事業地になっていることが大きな問題である。夢洲関西空港から車で40分かかるアクセスの悪さに加え、周辺に何もない、海に浮かぶ人工島なので地震津波、洪水に非常に弱いなど、様々な問題点を持っている。さらに、ゴミの最終処分場として利用されてきたので、地盤は非常に脆く、高層ビルの建設などには全く適していない。このように、IRの名目上の目的を達成するための事業地としてはおおよそ最悪である。

 

松井市長は市会の答弁などでも「民間企業が損益計算をして大丈夫だと言っているので大丈夫」という論調だが、本当に損益計算ができていれば (そして松井市長がずっと言っていたように本当に全て民間で行うなら)、大阪IRに出資する企業などいないだろう。

同じく人口島である関西空港島は、柔らかい沖積層はもちろん、本来沈まないはずの洪積層でも地盤沈下が起きたので、今現在でもジャッキアップシステムにより建物を底上げしている状態である。

 

trafficnews.jp

 

夢洲においても、建設時の土壌改良が勿論必要であるし、開業後も沈下し続ける可能性は否定できない。これに加えて、最初に述べた国の法律の問題もある。(事業者にとっては)お荷物のMICE施設や魅力増進施設、送客施設 (送客施設については、MGM・オリックスの事業計画の中ですら、収益が出ることを計画していない)を抱えたまま、投資するにはリスクとリターンが見合わないだろう。

 

3.そもそも、維新と事業者が、本気でIR開業に取り組んでいないこと

 当初、IRの開業目標は2025年、万博と同時の予定だった。この方針は2020年3月27日に、新型コロナウイルスの影響という名目で断念されたが、そもそも無理があったことは明らかだろう。万博と同時開業するためには、万博の工事と、IRの工事を同時に進めなければならない。

 

本当に2025年の万博と同時に開業したかったのならば、夢洲の土壌を候補地決定とともに行い、大阪市の事業として、責任を持って土壌整備を始めた上で事業者を募集するべきだっただろう。それが出来ないのであれば、土壌整備を含めた条件を明示した上で事業者を募集し、事業者が現れなければスッパリと諦めるべきである。

 

ところが実際に維新が行なってきたことを振り返ると、夢洲の土壌は碌な調査もせずに問題がないと言い張り、まともな事業者だったら手を挙げられない条件を掲げて事業者に丸投げした。案の定事業者は次々と撤退し、残ったMGM・オリックス大阪府市が交わした基本協定は、府市が事業者の言いなりになることを決めていると行っていい内容である

 

(全文はここから読むことができる)

yumeshima.blog.jp

 

詳細はリンク先を見てもらいたいが、最大の問題は、普通は地方自治体が負担することのない液状化対策費用や地盤沈下対策に市が公金を投入する上に、その費用を公共事業として府市が発注するのではなく、事業者が必要という金額を市が負担し、事業者が土壌改良を行うことである。

さらに、国のカジノ管理委員会のルールにより国際競争力が保てない場合や、市が事業者と協力して適切な措置を講じなかったりした場合、事業者は契約を解除することができる

 

こんな契約を他の企業にもしてしまうとしたら、大阪府市は民間企業からは絶好のカモに見えるだろう。そうでなければ、これは事業者への利益供与と思われても仕方がない。

 

ここまでの経緯を見ると、もはや最初からオリックスとMGM、さらに関西のゼネコンに金を流すために計画されていたとも思えてくる。ここまで事業者に有利な契約だと、20社の少数株主がいながら、売上や経済波及効果の試算がいい加減なことに対して誰も声を上げないことにも納得できる。

そもそも事業自体が目的ではなく、開業準備の段階で大阪市からジャブジャブと金が入ってくるのであれば、試算は現実的ではない過大な数字を出しておいて試算の詳細を見ない人を騙せればそれでいいのである。

 

維新がIRに本気でないと感じる要因は、夢洲の土地を頑なに事業者に売らないことである。大阪府市にとっては、土地を賃貸するのではなく、事業者に売却してしまった方が負担を減らすことができる。そもそも、売却ではなく長期定借とした理由は、長期定借の方がプラスであると試算されたからである。

(売却の場合は290億円の収入、長期定借では年間約25億円の収入である。)

 

 

ところが、既に大阪市の会計から地中障害物撤去費、土壌汚染対策費、液状化対策費に、港営会計から790億円を支出することが、基本協定からほぼ確定している。これに加えて地盤沈下対策費も、ほぼ間違いなく支出されるだろう。

 

なお、松井市長はIRに税金は投入しないと言い続け、大阪市からの支出がほぼ確定した現在においても、「市の特別会計から支出するので税金を使うわけではない」と言っているが、これは非常に程度の低い詭弁としか言いようがない。港営会計の資金が不足すれば、一般会計から補填することになることはIR推進局も認めているし、大阪市港湾局の試算によると、仮に地盤沈下の費用を全額事業者が持ったとしても、2055年までは港営会計の収支がマイナスになると試算している。さらに地盤沈下対策に400 億円を負担するとすると、収支がプラスになるのは2066年になると試算されている。

 

そうなると、土地を売却して整備を事業者に任せた方が大阪府市として合理的であるし、オリックス「仮置きした数字」や、MGMによる「その約倍の数値」が本当に実現可能であるならば、事業者も例え初期投資が嵩むとしても十分に採算が取れるはずである。当初は土地の改良費は全て事業者負担とされていたのだから、この話に乗っている時点で事業者はそれを覚悟の上で参入していないとおかしいのである。

 

維新の目標が本当にIR (カジノ)の開業なのであれば、わざわざ夢洲で行う必要がない夢洲を本気で開発したいのであれば、これまでの事業者が全てやるという態度は余りにも他力本願である。本気でIRを推進した結果がこれだというのならば、事業者への利益供与が目的であった時以上にタチが悪い。どちらにしても、こんな集団がトップに君臨するのが大阪である。この絶望的な状況に何ができるのだろうか。

 

終わりに・反対派も根拠に即した反論を

 筆者がIR、カジノについて資料を収集し始めたのは2021年の12月からであり、まだ4ヶ月ほどしか経っていない。一方で、大阪でカジノの議論が始まってからは、少なくとも5年以上の時間があった (2016年12月には、大阪市によるシンガポールへの視察が行われている)。

 

 

ところが、大阪市会の質疑やIR推進局の答弁を見ても、推進派、懐疑・反対派のいずれの関係者の知識が足りないように見える。この後に及んでマカオシンガポールなど、制度も規模も違う国や地域と直接比較をしたりするし、カジノ業社の年次報告を見比べることもしていないようだ。せっかくオリックスとMGMを市会に参考人として呼んだのであれば、MGMのアメリカでの業績を引き合いに質問するくらいのことはしてほしかった。

 

2019年に、MGMはラスベガスを除くアメリカで8つのカジノを運営していた。その8つのカジノのGGRの合計は約3,800億円である。さらに、非カジノ部門の営業利益は約1,100億円であった。収益の比率はカジノとそれ以外でおよそ7:3であり、夢洲での予定に近い。

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MGMが経営するラスベガスを除くアメリカのカジノの構成・分布・売上 (2019年、MGM anual reprot 2019より作成)

しかし、夢洲と比べて、8つのカジノの合計はホテル部屋数で2.5倍、スロット数で3倍、テーブル数で1.5倍の規模であり、どう考えても夢洲の1ヶ所だけでMGMがGGR4,933億円、非カジノ部門売上1,000億円を達成するのは不可能であることがわかるだろう。

 

マカオのカジノの営業においては、マカオ古参のSJMとの共同運営であり、ジャンケットの影響も大きく、MGM単独の力とは言えない。ラスベガスについても、前述の通りカジノだけに頼らない収益方法が都市を挙げて確立されているので、MGM一社の参考にはならない。すると、上記の数字がMGMの実力に近いものであり、夢洲での収益計画は、MGMがかつて達成したことのない数値である。この点を強調すれば、漠然と売上に疑義を唱えるよりもよほど効果的であろう。

 

日本のIRの問題は、元々国が十分な議論も方針もないままに地方自治体に丸投げしたことに起因している。なので、そもそものギャンブルの公共性や、インバウンドの是非を大阪府市に問うたところで、「我々は国の方針を進めているだけ」と躱されてしまう。大阪府市や維新の責任は、事業規模の大きさに比べて、全くリサーチが不足しており、その状態で無理矢理計画を進めているところにある。

それを意図していたかは別にして、今事業者の言いなりなってしまっているのは、ひとえに事前の準備が足りていないからである。ところが、大阪府市や維新はその責任を取ろうともせず開き直っている。

 

責任を感じない人間や組織はある意味無敵である。反対派は、自分達がそんな相手を相手にしていることをしっかりと把握しないとならない。元々権力側でない側は不利な立場にいる。相手は常日頃デマを振り撒いているのに、反対派が少しでも不正確な情報を流すと、すぐに相手につけ込まれてしまう。

 

例えば、淀川左岸線の第二期工事の費用が1,000億円増額になったと報道があったが、これをそのまま万博やIRと絡めて批判するのは正しくない。

 

xtech.nikkei.com

 

夢洲は現在コンテナ集積所として活用されており、関西の物流拠点となっている。その拠点を強化するためのインフラ整備は、万博やIRに限らず必要なものである。そして、延伸の方針自体は1996年3月の自民党時代に決定したことである。

しかし、維新時代の大阪市に責任がないわけではない。都市計画は2016年に変更になっており、その時の費用計算が甘かったことは紛れもない事実である。さらに元々は2026年度末に開通予定だった計画を2025年に前倒しになったのは、万博に間に合わせるためであり、これは会場を夢洲に選定した維新の責任である。

 

このように、批判をするときにはただ悪いと言うのではなく、しっかりと根拠を提示して、おかしな点を一つ一つ指摘していく必要がある。

 

相手側は次々と不正確な情報を垂れ流していくので、それを一つ一つ検証するのは骨が折れる。そして、どんなに滅茶苦茶なことを言われても、感情的になってはいけない。

 

本当に辛い道であるが、一発逆転を狙うようでは、維新と同じになってしまう。しっかりと現実を見て、一つ一つ対処していくしか、現実を好転させる方法はないのである。

 

大阪府議会では既に整備計画が賛成多数で可決されてしまった。大阪市議会でも、3月末に議決されてしまうだろう。国がこの滅茶苦茶な計画を承認するのか、まだ明らかではないが、承認してしまう可能性の方が高いだろう。

我々ができることは、しっかりと情報を把握し、問題点を浮き彫りにさせることだけである。

 

とにかくIRに関しては、国でも自治体でも、議論が足りていないように思える。本当にIRを推進したいのであれば、国に制度の見直しを求めた方が良く、国も今一度方針を見直すべきである。日本の責任回避の縮図であるIRがどうなるか、今後も注視していきたいと思う。

 

 

参考文献: ギャンブリング害~貪欲な業界と政治の欺瞞 キャシディ レベッカ (著), 甲斐 理恵子 (翻訳) (2021年)

大阪IRの試算根拠が滅茶苦茶過ぎて逆に笑えてきた (後編): 経済波及効果編

 前回は日本総研のIR試算の内、来訪者の消費額について確認した。

日本総研が無理矢理事業者の主張する数字へと試算を込んだ結果、事業者が主張する数字が荒唐無稽であることがわかった。

 

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今回は、経済波及効果の試算を一つ一つ見ていこう。

 

そもそも、経済波及効果とは

 オリンピックなどで経済波及効果という言葉は何度か聞いたことがあるかもしれない。

経済波及効果は、産業連関表という、各産業を分類し、産業間の需要と供給の関係を数値化したデータを用いて算出される。都道府県、地域、全国など、データを取る範囲の異なる産業連関表が作成されている。

 

経済波及効果の生産誘発額は、直接効果、1次波及効果、2次波及効果の3つから構成される。

 

直接効果は、その域内の消費の内、域内で生産された物品やサービスの金額の合計である。つまり、各産業の金額に、域内自給率を掛けた値が直接効果の生産誘発額になる。

 

1次波及効果は、直接効果に必要な産業の需要を生産するのに必要な需要の総額である。

計算時には、直接効果の額を産業連関表内の投入行列係数で行列計算を行い、その結果と産業連関表内の逆行列にかけることによって求まる。

 

2次波及効果は、直接効果と1次波及効果により労働者の所得が高まり、その所得によって増えた新たな消費への需要を生産するのに必要な需要の総額である。

計算時には、直接効果と1次波及効果から雇用者所得の増加額を計算し、その合計を消費性向と掛けて、民間消費支出増価額を計算し、それに民間消費支出構成比の行列を掛けることによって各産業の民間消費額を計算する。後は、消費額に域内自給率を掛け、それと逆行列を掛けることによって求まる。

 

また、多くのケースでは生産誘発額と合わせて、労働力誘発量も経済波及効果として計算される。これは、直接効果、1次波及効果、2次波及効果の産業部門ごとの生産誘発額に、労働力係数を掛けることによって計算される。

この労働力係数は、労働者一人当たりの生産性を表しており、上記の係数や行列の内、唯一産業関連表内に記載のない値である。

 

本資料内の計算のフローチャートを下記に示す。

 

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図1: 本資料22ページ

 

長々と書いたが、経済波及効果の計算自体はとても簡単である。何故なら、最初に事業の需要額を決め、次に事業の産業別構成比を決定すれば、
後はエクセルに数字を打ち込むだけで自動的に計算結果が出力される。

 

私が思うこの計算方法の問題点は次の通りである

  • 金額と構成比が同じであれば、どんな事業であっても、同様の経済波及効果が算出される
  • 入力と計算結果が線形であるため、供給能力の限界やスケールメリット、デメリットは考慮されていない
  • 産業関連表にはどれくらい細く産業部類するかによって、同じ地域、同じ年度でも複数種類が存在する。この中でどの産業関連表を用いるかは、計算者が任意に決定できる
  • 事業の構成比は計算者が任意に決定できるので、域内自給率の高い産業を優先的にチョイスすることによって、経済波及効果を高く見積もることができる
  • 2次波及効果は、労働者の所得が上がらないと効果は無い。現在企業の利益が配当金や内部留保に回る構造があるので、特に2次波及効果の信憑性はかなり低い

 

 更に、今回使われた産業関連表は、平成17年近畿地域産業関連表29部門表であり、15年以上前のデータである。
地方ごとの産業関連表の作成は平成17年を最後に行われていないので、近畿地域のデータとしては最新であるが、如何せん古すぎる。この時点で、経済波及効果の値が信用できないことは分かるだろう。

 

最も、この試算の問題点はそんな所ではない。もし、この産業関連表が十分に信頼できるとしても、この試算は試算の体を成していない。それを解説していこう。

 

経済波及効果のまとめ

 

 個別に試算の詳細を見る前に、まずは試算結果のまとめを見てみよう。

 

本資料では、経済波及効果の最終結果が次のようにまとめられている。
事業準備段階で生産誘発額は約1.5兆円、雇用創出効果は約10万人とされている。

 

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図2: 開業準備期間の経済波及効果 (本資料8ページ)

 

また、開業3年目において、生産誘発額は年間1.1兆円、雇用創出効果は約6万人と見積もられている。

なお、使われたのが近畿地域産業関連表なので、経済波及効果の範囲も近畿圏内のものである。

 

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図3: 本資料31ページ

どちらもとても大きな数字となっているが、当然カラクリがある。では、開業準備のIR建設部門から見ていこう。

 

1. IR建設

 IR建設段階では、8,071億円の最終需要を、建設100%として計算している。なお、事業計画書 には建設段階での初期投資額は消費税抜きで7,871億円とされており、200億円不足しているが、これはMGMとオリックスが負担する分の地下鉄延伸費用200億円を含んでいると考えられる

 

先ほども述べたように、需要額と産業部門の割合を決めた時点で、IR建設に伴う経済波及効果は算出できる。つまり、額が同じで、建設100%とするなら、何を建てたとしても全く同じ試算結果となる。


IR施設の建設でも、仮にビルを建てて直ぐに解体しても、あるいは黄金の巨大吉村像を建てたとしても、投資金額が同じであれば同じ値が算出される。

よって、IR建設による経済波及効果1.4兆円という文句は、初期投資額8,000億円の同語反復に過ぎない。

 

また、雇用創出効果を計算するための労働力係数は、一度算出したら、少なくともその試算中は同じ値になるはずである。

 

ところが、

 

この数字が、一回の試算中に変わっている所がある。建設部門の労働力係数は、直接効果計算時は0.0818であるのに対し、1次波及効果、2次波及効果の計算時は0.0826になっている。

なお、0.0826で計算すると、直接効果の雇用創出効果は66,560人になるが、0.0818で計算しても計算結果にある66,006人にはならない (少数第5位を四捨五入していると考えて、0.0818499としても、65,979人となり、少し足りない)。

このことから、雇用創出効果の数字があらかじめ決まっていて、それに合わせて労働力係数が調整されている可能性がある。

 

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図4: 建設時の経済波及効果 (本資料9ページより作成)

 

 

 

2.開業準備等

 図5にある通り、最終需要額は1,812億円であり、各産業への配分は対事業所サービス39%、製材・木製品・家具45%、電気機械16%である。

開業までに、従業員の教育を行う必要があり、その数はカジノのディーラーだけでも2,500~3,000人程度と予想される 。
(1日当たり1テーブルにつき最低3人は必要で、シフトを考えるとその倍は必要である。テーブル数が470の予定なので、2600人は最低でも必要になる)

そう考えると雇用創出効果7,885人というのは妥当と言えるが、これも必要な頭数をあらかじめ概算しておき、それに合わせて産業の配分を調整、という順番かもしれない。

 

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図5: 開業準備時の経済波及効果 (本資料10ページ)



 

3. 開業後: 非MICE

 開業後については、4つの部門に分けて計算されている。非MICE、MICE、後背圏 (訪日外国人旅行者)、後背圏 (国内旅行者)である。

 

各施設の需要算定は、次のようになっている

 

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図6: 施設ごとの需要算定の方法 (本資料20ページ)

 

さて、カジノ施設の需要算定の考え方に、根本的な誤りがあるのがお分かりだろう。

図6にあるゲーミング売上高とは、客の負けた金額の総額である。この金額がいくらであろうとも、それが経済に波及することは絶対にない

 

カジノ行為のために必要なトランプやチップなどの需要、人件費分のサービス代は計算に入れるべきだが、後は客が1,000億円負けようが5,000億円負けようが、納付金として国、自治体に入る30%を引いた残りは事業者に入るだけなので、それは何の需要も生まないのだ。

カジノで負けたお金で買えていた物やサービスが買えなくなるので、むしろ経済波及効果にはマイナスに働くだろう。

 

逆に、コンプ・ポイント費用というのは、客がIR施設内のホテルや飲食店などで使え、その分のサービスや物品が消費されるので、(このコンプこそがIR施設に客を釘付けにする要因なのだが、)この金額は控除するべきではないだろう。

 

カジノの経済へのマイナス効果を無視するとしても、カジノのGGRを計算に入れるのは間違っている。これによって、最終需要額が膨れ上がるだけでなく、域内自給率の比較的高い対個人サービスの割合が上昇するので、直接効果が更に膨張するのである。

 

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図7: 非MICEの数値決定 (本資料23ページ)

 

なお、前回紹介した旅行者の消費金額から逆算すると、コンプの費用は約730億円で計算されていることになる。これはGGRの15%であり、海外にあるMGMのカジノの25~33%に比べると、やや低い金額になっている。

 

本来計上してはいけない金額を計上することで、経済波及効果は水増しすることができる。しかし、そのままでは、雇用創出効果も比例して大きくなってしまうので、直接効果がありえない数字になってしまう。

 

MICE部門と同じ労働力係数で計算すると、41,633人を直接雇用することになってしまう。この中には、IR施設外でIR施設に必要な物品を生産する人数も含まれているが、カジノのGGRによって膨らんだ対個人サービスだけでも35,678人である。

事業者の雇用予定人数はIR施設全体 (MICE含む)で約1.5万人であるため、倍以上の人数になってしまう。

 

普通の感覚では、その時点で最初の数字の見直しを行うだろう。

 

ところが。直接効果の金額は上記のままであるにも関わらず、最終的な計算結果の雇用創出効果は17,595人となっている。

 

このカラクリはどうなっているのだろうか。

 

答えは、先ほども行なっていた労働者係数の書き換えである。本試算中、他のどの計算においても対個人サービスの労働者係数は0.14592であるのに対して、非MICE部門の直接効果の労働者係数だけ0.04751に置き換えられている。

 

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図8: 非MICE部門の経済波及効果の計算 (本資料24ページより作成)

 

本資料では、この労働力係数が都合の良い数字に変わっている事について何の説明もしていない。これでは、結論ありきで数字を恣意的に変えていると言われても仕方がないだろう。

 

逆にいうなら、この事業者が求めている数字を使って、本来計算に用いるべき最終需要額を逆算することができる。対個人サービスの雇用者11,619人を働者係数0.14592で掛けると、対個人サービスの生産需要額は796億円となり、最終需要額は981億円、非MICE部門の需要総額は2,381億円となる。

 

この時の生産誘発額は、直接効果で1,383億円、1次波及効果で533億円、2次波及効果321億円、合計で2,337億円である。資料中だと4,889億円であるため、倍以上に水増しされていると言えるだろう。

 

重ねて強調しておくが、カジノにはマイナスの経済波及効果があるが、今回はそれを考慮に入れていない。参考程度に、対個人サービスの、本資料内の計算 (3,012億円)と雇用者から算出した最終需要 (981億円)を差し引いて計算すると、カジノは客から2,031億円分の消費を、提供したサービス以上に奪っている事になる。これをもとに2次波及効果を計算すると、1,258億円の損失である。カジノで負けた金額 (4,988億円)に加えて、これだけの損失が出るのである (これには、依存症による社会へのリスクは含まれていない)。

波及効果の計算をするなら、マイナス分も考慮に入れて欲しいものだ。

 

 

4. 開業後: MICE

 さて、MICE部門の試算の検証に入る前に、MICEについては以前ほとんど取り上げていなかったので、現状の大阪IRの規模とイベント件数の見積もりを確認しておこう。

MICE施設

 MICEの中核となる展示場は、当初の開業時10万平方メートルから、2万平方メートルへと大幅に縮小されており、これはインテックス大阪の3分の1以下の大きさである。

国内最大の東京国際会議場が全体で約11万平方メートル、南展示場だけでも2万平方メートルなので、この規模で世界的な大規模イベントを呼び込むことの不可能さがわかるだろう。

 

大阪府市の当初の実施方針は開業時10万平方メートルであったが、2021年3月19日の時点で、段階的な開業を許す変更を行った。

変更された実施方針にある拡大計画は開業15年以内に6万平方メートル以上、事業期間内に10万平方メートル以上であるが、それに続いて、

なお、段階整備の時期・規模等については、新型コロナウイルス感染症による影響等も含め、展示会・イベント等の需要動向、MICEビジネスモデル及び新しい生活様式のあり方並びに開業後の展示等施設の運営状況及び設置運営事業者の財務状況等を踏まえて、必要に応じ見直すものとする

 

という文言があるので、恐らく何らかの理由をつけて拡大を断念する事になるだろう。

その傍証に、事業計画書の中で展示場を拡大する計画については一言もない

 

各種会議場は、最大6,821人収容可能な最大会議場を筆頭に、大小16室用意する予定で、最大収容人数の合計は13,645人と計画されている。

 

IR施設にとってのMICEは名目上の目的ではあるが、その売上はカジノに比べれば雀の涙であり、営利を目的とする事業者がわざわざ拡大する理由はない。

加えて、パンデミックにより会議のオンライン化が急速に進んだ事によって、MICE施設の需要減少は避けられない。本音を言えば、事業者はMICE施設など作りたくないだろう。

 

なお、既存の施設で規模が最も近いのは、パシフィコ横浜であろう。

収容人数がそれぞれ5,002人と1,004人の大小ホール、最大6分割できるアネックスホールを含む27会議室があり、最大収容人数の合計は11,971人である。最大収容人数が少し小さい代わりに、会議室の個数はこちらの方が多い。展示場の面積も同じ2万平方メートルである。

本文の後半で、このパシフィコ横浜との比較も行う。

 

 

MICEの件数と来場者数

事業計画では、大阪のMICE開催数はパンデミック前と同等の水準で増加し、大阪IRでは開業3年目には計531件が開催されるとしている。

観光庁 (JNTO)基準の国際会議 (C)は29件 (平均参加規模750人)、M、Iの485件の内、国際が19件、国内のものが437件である。この値を基に計算すると、MICの合計参加者数は36.3万人である。

また、国際標準化機構 (ISO)基準の展示会 (E)は44件 (平均参加規模8,295人)である。この基準外のイベントが2件予定されており、これらの合計参加者数は38万人である。

以上より、事業計画によるMICEを目的とした来場者数は74.3万人を予定しているといえる。

 

なお、例によってこれらの数字の根拠はなにも示されていない。一応大阪他施設の件数やその伸び率の推計方法については記載があったが、根拠と言うには余りにも頼りないものばかりだ。

例えば、ミーティングについては、

  • 大阪国際会議場における、2018年度の国内会議の開催件数は1,183件であった。開業初年度までは当該件数が続くと想定し、開業初年度における「大阪の他施設」の開催件数は約1,183件と見込んだ。
  • 2014年度から2018年度において、大阪国際会議場における国内会議の開催件数は2015年度の1,441件が最大であった。大阪IRの開業後は、大阪国際会議場との連携を強化し、大阪全体でのMICE開催件数を増加させることをめざしており、開業3年目期における「大阪の他施設」の開催件数は2018年の実績である約1,183件から約1,441件まで増加すると見込んだ。なお、開業3年目期は初年度と3年目期の平均値を見込んだ。

 

とあるが、2019年時点で、パンデミックにより中止された会議を含めて国内会議は1,152件であり、ピークの2015年から右肩下がりに減少している

会議のオンライン化が今よりも進むであろう開業3年目に、大阪の他施設での会議がピーク時に戻り、さらに437件の国内会議が大阪IRで「追加で」行われるという状態は誰の目から見ても現実的でないだろう。

さらに、コンベンションの開催件数について、

なお、開業3年目期における「大阪の他施設」の開催件数は、2019年度における京都市の国際会議の開催件数383件を超過し、384件程度まで増加するものと想定した

 

とある。JNTOの統計によると、大阪市の2015年から2019年までの伸び率は確かに+47%であるが、京都市のこの期間の伸び率は+76%と大阪市の伸び率を大幅に上回っている

 

さらに言うなら、大阪市は2016年から2017年に伸び率が-29%と純増していない一方、京都は年間40~50件ペースで純増している。

絶対数で考えても、2019年の204件と言う数字は、2015年の京都市218件にすら及んでいない。

この実績を持つ大阪が、大阪国際会議場インテックス大阪よりもアクセスの悪い場所に大阪IRを開業したからといって、MICEの件数を計画通りに増やしていけると本気で思っているのだろうか。

ただ、カジノ施設の来場者のように物理的に困難な数字ではないだけ、本試算内の前提となる数字としては残念ながらまだ現実的な値であるといえる。

 

 

経済波及効果

 それでは、MICE部門の経済波及効果の算出根拠を見ていこう。

最初に言っておくが、本資料中でこの試算が最も支離滅裂である。

まずは日本総研が行った試算方法を確認し、それからその問題点を一つずつ指摘していこう。

 

日本総研の試算

MICEの経済波及効果の算出のためには、MICE以外のIR施設内の消費 (参加者の宿泊費、食費、おみあげ代等)は省かなければならない (非MICE部門と二重計上してしまうため)。

そこで、本試算では、平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書内の、主催者と出展者の消費金額を基に算出を行っている。

その金額の合計は、この試算だと2,237億円である。

 

 

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図9: 本資料25ページより作成

 

そして産業分野の配分は図8の真ん中の表の通りである。なお、Meeting部門の「対個人サービス90%」は、「対事業者サービス90%」の誤りであると思われる (図8左の金額から)。

結果的に、域内自給率が89.0%と高い対事業者サービスが全体の79%を占め、直接需要額は1,864億円とされている。

 

これをこれまでと同じように行列計算を行うと、次のようになる。今回は労働力係数の操作は行っていないようである。

 

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図10: 本資料26ページ



 

まとめると、経済波及効果は直接効果1,864億円、1次波及効果721億円、2次波及効果485億円。

雇用創出効果は直接17,507人、1次波及4,459人、2次波及3,374人である。合計で経済波及効果3,070億円、25,340人である。

これだけ波経済及効果が本当にあるならば、カジノがなくてもIRが成立してもおかしくはない。が、当然そんなことがあり得るはずもなく、例によってこの数字も盛りに盛られた数字である。

経済波及効果を計算する前の需要額の決め方に問題があるのだが、問題点が多すぎる。一つ一つそのおかしさを確認しよう。

 

来訪者数の整合性

 事業計画を元にすると、MICE目的の総来場者数は先に述べたように74.3万人である。ところが、試算の際の来場者数は、(2,450+(753,205)x2+659,916)人で216.9万人と3倍になってしまっている (図8、753,025人を倍にしている理由は後述)。これはどちらが正しいのだろうか。

 

事業計画が正しいならば、需要額を3倍くらいに見積もってしまっている事になるので、修正しないといけない。試算が正しいのであれば、MICEのイベント数か平均参加人数を3倍にしないとならない。

表向きとはいえ、IRの中核とされているMICEの来場者予測がこんないい加減でいいのだろうか。

 

平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書内の主催者、出展者単価について

 主催者と出展者の単価の算出根拠は、先に述べたように平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書を出典としている。確かに主催者と出展者の単価の記載はあるのだが、これをそのまま本試算に用いることは3つの点で間違っている。

 

1. 開催規模の違い

 まず、この平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書で取り扱っているのはJNTO基準 (またはICCA)の国際会議と、ISO基準の大規模展覧会であり、日本だけの会議などは扱われていない。

以下に展示会の基準を引用する

また、実施規模の観点から 2016年に開催された展示会のうち、利用展示面積3万㎡以上 の展示会を抽出したが(東京ビッグサイト幕張メッセインテックス大阪、ポートメッセ 名古屋の展示会・見本市のみが該当)、その他にも外国人の訪問も多く重要と思われる展示 会や見本市もカバーするため、一部パシフィコ横浜やその他の展示会場で開催されている 展示会・見本市については各地方の運輸局に照会し、調査対象としてふさわしいと考えられる催事を抽出した。

 

つまり、ここで計算されている単価の多くは大阪IRの展示場よりも規模の大きい会場で行われたものから計算されているので、大阪IRにそのまま応用できるかは疑わしい。

さらに、先に書いたように、計485件のMICの予定の内、平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書内の計算に合致する可能性のある会議は、M、Iが19件、Cが29件である。それ以外の国内会議は、より規模が小さいものが多く、単価は比較的少ないと予想されるので、それら全てを国際会議基準で計算するのは誤りである。

 

2. M+Cの単価の計算の誤り

 図8を見てわかるように、コンベンション単体の単価はなく、M+Cという形で計算を行っている。そして、その単価は、平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書にあるミーティングとコンベンションの単価をそのまま足したものになっている。

この方法だと、ミーティングまたはコンベンションのどちらか一方を目的として、それぞれ753,205人ずつが来訪することになってしまう

 

両方を合わせて753,205人であるというなら、単価同士を足す前に母数を揃える必要がある。

図11の通り、この単価は主催者の総消費金額を、総来場者数で割ることによって求まっているが、その母数はミーティングで284,501人、コンベンションで1,862,506人と、5倍以上開きがある。単価を計算するときは、それぞれの消費金額を足したものを、それぞれの総来場者数を足したもので割らなくてはならない。よって、 (この数字を用いることが妥当だとしても)単価は9.39万円で計算しなくてはならない

 

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図11: 黄色文字が試算に用いられた値。平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書76-90ページより作成

 

母数を揃えて計算するという統計の基本中の基本もできていないのがこの試算である。

 

日本総研シンクタンクを名乗る上で、致命的なレベルの間違いであるが、それが事業計画にそのまま採用されているというのは眩暈がしてくる。可能性としては、大阪市大阪府オリックス、MGMはチェックをしたがすり抜ける程に統計の知識がないか、チェックすらしていないか、あるいは誤りを認識はしているがそれをそのまま事業計画に載せていいと考えているか、のいずれかしかない。どれであっても、大阪府民にとっては絶望的な話である。

 

 

3. 主催者、出展者単価内の二重計上

 さらに、仮に平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書の単価がMICE規模の違いなどの観点から十分に適用できるとしても、単価をそのまま使うことはできない。

 

何故なら、この単価には、宿泊費や交通費など、非MICE部門や後背圏に計上される金額が含まれているからである。

図11の通り、特にミーティングの単価の60~70%は交通費、宿泊費、食費で構成されているので、これらの金額は除外しなければならない。

 

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図12: 平成29年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書83ページより抜粋

 

コンベンションの単価については、調査された平成28年度MICEの経済波及効果算出等事業報告書でのサンプル数が少ないこともあって (主催者の有効解答は30件)、回帰曲線を作成し、主催者の単価を求めている。

よって、この中の交通費、宿泊費、食費がどれくらいかはわからないが、3大都市圏開催のコンベンションの参加者の平均支出 (宿泊費、飲食費、交通費、買い物費、土産費、娯楽・観光費)は医療系で55,017円、それ以外で34,166円であったことを踏まえると、コンベンションの主催者単価 (80,322円)も半分以下になると考えられる

 

最終需要額2,237億円は、幾重のもの誤りを重ねて作られた虚構であることがお分かりになっただろうか。

来訪者数を事業計画にある76.3万人とし、二重計上を除外して計算すると、最終需要額は268億円程度となり、この場合の経済波及効果は合計で357億円となった。

MICEの数字は、実に9倍に盛られていたことになる。

 

これはかなり荒い計算なので、妥当性の確認のため2017年度パシフィコ横浜の経済波及効果の試算を見てみよう。

 

パシフィコ横浜の経済波及効果試算

まず、2017年度のパシフィコ横浜の総来場者数は試算資料によれば393万人、総催事数は796件である (パシフィコ横浜の年次報告の値よりも少ないが、今回はこれらの数字を用いる)。

 

大阪IRの想定する催事数よりも催事の多いパシフィコ横浜であるが、この統計では、主催者と出展者の消費金額の合計は約280億円だと見積もられている

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図13: パシフィコ横浜の経済波及効果の試算

詳細がないのでハッキリとはわからないが、この数字にも宿泊費等が含まれていると考えられる。しかし、この数字からも、大阪IRの最終需要額が2,237億円というのは荒唐無稽であることがわかるだろう。

 

「総催事数796件」パシフィコ横浜の、参加者を含めた「全ての消費」から計算された、「日本全国への」経済波及効果の合計が2,310億円である。

「総催事数531件」の大阪IRの、「MICEのみ」「近畿圏への」経済波及効果がそれの1.3倍の3,070億円になる事など、絶対にあり得ないのだ。

 

MICE部門まとめ

 以上より、MICE部門の試算結果の経済波及効果3,070億円というのは、

  • 事業者の想定する催事件数、来訪者が本当に来るとして、
  • 自分達で設定したはずの来訪者数を3倍に盛って
  • 母数の異なる平均値をそのまま足すという大学生でもやらないような計算間違いをして
  • 本来除くべき宿泊費や交通費などを二重に計上して

ようやく捻り出せる数字なのである。パシフィコ横浜の例を考えると、大阪IRのMICE部門の経済波及効果は上手くいったとしても100~200億円程度になるだろう。

そもそも、パンデミック前のパシフィコ横浜全体の売り上げが85億円程度だったことから、MICEという産業事自体の規模がそれほど大きくはないことがわかるのではないだろうか。

 

後背圏 (国内旅行者・訪日外国人旅行者)

 MICE部門が長くなってしまったので、残る後背圏は軽く流そうと思う。

 

後背圏の計算において、来訪者の条件としては、「宿泊客」かつ「大阪IRがなくても来訪したと思われる人数を除いた分 (純増分)」となっている。純増分は開業3年目で外国人旅行者250万人国内旅行者121万人である。

例によって純増分は「事業計画において設定した」値であるため、その根拠は示されていない。

 

それぞれの消費額については、前回の記事にある通りである。

 

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図14: 本資料28ページ (拡大は筆者)

 

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図15: 本資料30ページ

なお、またもや各産業への分配の表に誤りがある。図13の宿泊費の欄を見ると、対個人サービス45%、その他製造工業製品58%と設定したとあるが、パーセンテージの和が100%を超えるという、小学生でもやらないミスをしている。

しかも、恐ろしいことに、その他製造工業製品のパーセンテージを58%にしても55%にしても計算が合わない。ステップ3との整合性を取るためには、その他製造工業製品47.8%である必要がある。同様に、国内旅行者の同じ箇所も間違っていて、正しくはその他製造工業製品44.6%である必要がある。

 

このようなミスが散見されると、結論の数字を決めてから、産業分配率を調整しているのではないかという疑義を持たれても仕方がないだろう。

 

間の計算過程は省略するが、最終的な経済波及効果は、以下の通りである。

 

訪日外国人旅行者

直接効果: 1,834億円、1次波及効果723億円、2次波及効果425億円

雇用創出効果: 直接21,771人、1次波及5,644人、2次波及2,958人

 

国内旅行者

直接効果: 307億円、1次波及効果120億円、2次波及効果75億円

雇用創出効果: 直接3,676人、1次波及883人、2次波及518人

 

外国人旅行者の経済波及効果が2,982億円と多く、国内旅行者は502億円と、それよりも遥かに少ないが、合計で3,484億円と、全体の1/3の額を占めている。

 

最も、頼みの外国人旅行者が今後も増えていくという見通しはまるで立たないし、IR施設が儲かれば儲かるほど、後背圏にはマイナスの経済波及効果が働く。

 

IRへの来訪者の内、279万人を国内宿泊者、629万人を訪日外国人旅行者としているが、逆説的に言うと、この数と純増分の差である国内宿泊者159万人と訪日外国人旅行者379万人は、IR施設がなくとも大阪を訪れるという意味になり、純増分を上回る人数をIR施設に釘付けにするということになる。なので、この部門の経済波及効果については数字通りにはいかない可能性が極めて高いだろう。

 

例えば、上記の国内宿泊者159万人と訪日外国人旅行者379万人について、後背圏1の値を用いてIR施設によるマイナス分を計算する。

交通費はいずれの場合でも大阪まで来ているので0円として、海外旅行者の場合はIR施設圏とそれ以外の地域で滞在日数が異なるので、3.01日分の単価を2.17日に直して計算する。すると、海外旅行者に対して合計1,630億円、国内旅行者に対して合計292億円、しめて1,922億円のマイナスの経済波及効果があると推定される。

 

大阪の成長戦略の一丁目一番地としてIRを本気で掲げたいのであれば、これくらいの負の側面を考えるのは当然ではないのだろうか。このような所からも、事業者や大阪府市ですらIRが掲げる大義名分が本当だとは思っていないことが透けて見える。

 

結論

日本総研が出した生産誘発額は年間1.1兆円であったが、筆者が調べたところ、

 

  • 非MICE部門は合計で2,300億円程度 (カジノのマイナス経済波及効果は除く)

 

  • MICE部門は約1/10の100~300億円程度

 

  • 後背圏部門は、IR施設に客を奪われることによる効果を差し引いて1,500億程度

 

なので、試算としては4,000億円程度が妥当であると思われる。

 

強調しておきたいのが、事業者の嘯く数字が仮に正しいとしても、この程度の経済波及効果しかないということである。

 

少なくとも1日2.2万人が平均2.4時間のギャンブルの為だけにIR施設に通い、平均2万負け、後背圏の店はIR施設を目的に訪問してくる以上の客をIR施設に取られ、需要が減っていく要素ばかりのMICEへの集客が奇跡的に上手くいってこれである。

 

業者の物言いを信じたとして、待っている未来に希望が持てないのは私だけだろうか。

 

オリックスが裏で想定しているように客が全員日本人だとすると、カジノ以外の売り上げの内1,327億円の売り上げが消え、さらに比重がカジノに傾く。IR施設を維持するためには、カジノの売り上げを増やさないとならない。

そうなると現在の法律では外国人旅行者からの高収益は期待できないので、法改正をして抜け穴を作るか、あの手この手を使って日本人をとにかく夢洲に集めるしか手はない。

 

そこまでして、夢洲にIRを作るべきなのだろうか。

そして、唯一の成長戦略の中身がこんなにいい加減な府市が、今後まともな行政を運営できるのだろうか。

 

先日国の管理システムであるハーシスへの入力を、外部業者に契約書なしの口頭で委託を行おうとした問題があったが、大阪行政の機能不全は深刻である。

www.asahi.co.jp

そして、外部委託を管轄する能力もないとなると、いよいよ組織としての存在意義が問われてくる。そして、この滅茶苦茶な事業計画と試算は、民間に任せればいいという維新が振りまく幻想を完膚なきまでに破壊する好例である。既存のルールや枠組みをただ破壊しても、そこに残るのは野蛮と無秩序だけである

 

次回投稿では、大阪IRとカジノについて一旦まとめようと思う。

 

大阪IRの試算根拠が滅茶苦茶過ぎて逆に笑えてきた (前編): 消費金額試算編

はじめに

 以前の投稿で大阪IRの計画書の、特にカジノ関係の中身を見ていった。

swatcher-k.hatenablog.com

簡単に要点をまとめると、

  • IR施設への来場者は年間2,000万人、内カジノ施設を訪れるのは1,610万人
  • GGR (客の負け金額の総額)は4,933億円 (府市に入る予定の納付金740億円より計算)
  • カジノを訪れる1,610万人の内、1066万人が日本人 (府市に入る予定の納付金320億円より計算、入場料は6,000円で、国と府市で折半)
  • 一度にゲームが出来る最大の人数は約1.1万人であるが、一日平均の入場者数はその4倍の4.4万人
  • 計画書の数字は事業者のオリックスに言わせれば「仮置き」で、オリックスは客も投資元も全て日本人で行う計画で試算を行っている

(法律により、マカオの圧倒的なGGRを支えてきたジャンケット業者の賭場運営や外国人富裕層への金の貸し出しはできず、海外の外国人向けカジノに比べて夢洲は空港からの立地が比較にならないほど悪いので、外国人富裕層からの稼ぎは期待できない)

 

というわけで、事業者本人が自白している通り、見る価値の無い計画書であることがわかった。

 

ところで先日、衆議院議員の大石あきこ議員が大阪市にカジノ計画の経済効果について大阪市に情報開示請求をしたところ、全部を非公開にするという決定がなされた。

 

 https://twitter.com/oishiakiko/status/1490950694714875911 

 

非公開の理由は要約すれば「事業者の秘密だから」である。前述したように、
オリックス社内の計画は提出された計画書とは全く異なるだろうから、
開示出来ないのだと推察される。

 

しかし流石に全く根拠を開示出来ないのはまずいと感じたのか、
大阪市は2月9日、日本総研が行なった経済波及効果についての算出方法の解説資料をアップロードした

 

大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)
経済波及効果の算定方法及び算定根拠について(解説資料)

 

 

この資料はあくまでも事業者が標榜する数値 (GGR4,933億、IR施設への来場者2,000万人、等)を前提として試算されており、それらに関する根拠は一切示されていない

前提がおかしいと指摘されているのに、それに乗っ取った試算を行っても、意味のある数字が出てくるわけがない。

そもそも経済波及効果の試算を真に受けている人はそんなに多くなないだろう。
公開から1週間以上が経ったが、この試算についての検証は、私の見た限りだと行われていない。

 

ところが、試算の中身を見てみたところ、もはや試算と言えるのか疑わしいほどの
「数字遊び」に、怒りを通り越して笑いが出てきた。

皮肉にも、一生懸命数字を合わせることによって、いかに事業者が標榜する数字に無理があるかが如実に示されたのである。

 

そこで、解説資料にある試算について、その導出の過程と結果を見ていこうと思う。

長くなるので、今回はIR施設来訪者の消費額についてのみ解説し、
経済波及効果については次回に回す。

 

ステップ0: 統計値と旅行者、消費区域の設定

 まず、IR施設来訪する旅行者の消費額について確認する。本試算では、IR来訪者を、
国内旅行者 (日帰り)、国内旅行者 (宿泊)、訪日外国人旅行者、の3つに分けている。

これらの来訪者が消費する単価は、近畿圏 (福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)への旅行者数と、その消費額から計算されている。
(観光庁旅行・観光消費動向調査 2019年1-12月期確報)


なお、国内宿泊客の平均日程数は2日、訪日外国人旅行者は5.18日である。

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表1: 近畿圏における観光客の旅行当たりの消費単価

更に、消費区域を、IR区域内後背圏1 (IR施設に滞在する時間帯以外の消費額)、
後背圏2 (宿泊客がIR施設以外の施設に宿泊する際の朝食代と宿泊費)に分けている。

後背圏の区別がわかりづらいので補足すると、例えば、2泊3日の外国人旅行者が、
1日目をIR施設内で、2~3日目を東京で過ごしたとすると、
2~3日目の消費額は後背圏1に勘定される。

一方で、旅行者が日中をIR施設で過ごし、梅田周辺のホテルに宿泊する場合、
梅田で消費した朝食代や宿泊費は後背圏2に勘定される。

(IR施設内の総客室数は2,500の予定なので、一部屋平均2人で183万人、一部屋平均3人でも274万人までしか年間で宿泊することは出来ない。)

 

ここから、消費金額の試算が始まる。
大きく分けると、各部門それぞれを3ステップで試算している。

 

ステップ1. 滞在時間を設定する

 国内宿泊客の平均日程数は2日、訪日外国人旅行者は5.18日であるが、IR施設で過ごす時間を国内宿泊客が1日訪日外国人旅行者が2.17日と設定している。
なお、この設定の根拠は「事業計画」であるため明らかではない
これにより、IR区域内、及び後背圏2の日数が国内1日、海外2.17日となり、
後背圏1の日数が国内1日、海外3.01日となる

 

日帰り旅行者については、0.4時間をIR区域外 (後背圏1)IR区域内が0.1時間と仮定されている。
これについての根拠は全く示されていない。IR区域内の平均滞在時間が2時間半弱と
恐ろしく短いが、何故こうなるのかは、試算の続きを見ればわかる。

なお、IR区域への交通費は後背圏1に計上される。
その為、日帰り旅行者の後背圏2消費額は0円である。

 

ステップ2. 滞在時間に応じて統計値の平均単価を按分する

 ステップ1で設定した滞在時間で統計値を割って、各部門の単価を求める。
宿泊客の後背圏単価1と、各交通費については、このステップで算出された単価が
そのまま採用される
IR区域内、及び後背圏2については、次のステップ3を行う。

 

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本資料44ページ

日帰り旅行者については、単純に按分するのではなく、娯楽費はIR施設のみで消費されると仮定している
後背圏で飲食してIR区域内で遊ぶと考えれば、この仮定自体は問題ではないのだが、この後ステップ3でどうなるか注目してほしい。

更に、後背圏単価1の飲食費と買物代は按分ではなく据え置かれている
これにより、単価が1,691円増えている。

 

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本資料45ページ

ステップ3: IR施設の特性に合うように数値を調整する

 ここまでは試算と呼べるものになっていたが、ここから数字遊びが始まる。

 

まずIR施設の消費額に、調整率なる値 (算出根拠不明)を掛けて
IR施設の特性を反映させるらしい。

 

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本資料46ページ

ご覧の通り、全体的に数字が激減した。せっかくIR区域でのみ消費されると仮定した日帰り客の娯楽費も約1/40になってしまった。

 

さて、この調整率だが、よく見ると、調整率は項目ごとに大きく異なる。

 

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表2: 本資料46ページより算出した調整率

この調整率を好きな値に設定すれば、いくらでも好きな値を算出することが可能である。

最後に、「観光統計及びIR区域への来訪者数を加味して想定したIR区域内消費額と事業者で想定した売上との整合性を考慮して」設定された倍率を掛けて、最終的なIR内消費額になる。

こちらの値は旅行者の区別によらず、部門ごとの定数になっている。
とはいえ、この数値は「事業者で想定した売上との整合性」を取るための値なので、
算出根拠不明な数字に対して統計データを歪めているという点には変わりない。

 

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表3: 観光統計及びIR区域への来訪者数を加味して想定したIR区域内消費額と事業者で想定した売上との整合性を考慮して設定された倍率

最後に、後背圏2の値を調整して試算ごっこは終了である。

(飲食費は、先の述べたよう朝食代のみを勘定に入れている)

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本資料52ページ

以上をまとめると、次の表のようになる

 

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表4: 旅行者ごとの消費単価、筆者作成

なお、それぞれの旅行者の人数が示されているが、これについても事業者が主張している数字をそのまま使っている

表を見ると、これまで出てきた5部門 (交通、飲食、宿泊、買い物、娯楽)の合計と、消費単価が合わないことに気づく。
本資料には、最終的な消費単価と、5部門それぞれの値は掲載されているが、
この「?」にあたる値については全く言及されていない

 

お分かりかと思うが、この?がカジノでの消費金額である。

 

その証拠として、単価と人数を掛け、客種ごとに足すと、
その合計は4,988億円となり、事業者が主張する納付金額から導かれるGGR4,933億円に近い値となる (もしかしたらMICEの費用も含まれているかもしれないが)。

 

このGGRと客種ごとの客数が最初に決められていて、
それに合うように数字を調整していたのである。

 

結果として、特に日帰り客の消費金額と滞在時間にしわ寄せがいっている。
平均で僅か2.4時間しかIR施設内に滞在せず、カジノ以外への平均消費額は827円という、おおよそ有り得ない試算結果になってしまっている。
一方で、カジノの平均負け額は2万円近くなっている。

 

無論全ての日帰り客がカジノに行くわけではないが、事業者が主張する入場料から計算すると、1,066万人の国内在住者がカジノに入場することになっているので、
仮に国内宿泊客279万人が全員カジノに行くとしても
(カジノに20未満は入れないので、勿論この仮定は非現実的である)、
最低787万人の日帰り旅行者はカジノに行くことになる。

 

よって、この試算によって、事業者の計画通りに事が運んだとすると、

約800万人の日帰り客はカジノだけを目的にIR施設へと足を運び、平均2時間半弱で帰って行くことになる。交通費に平均5,000円くらいかけ、カジノへの入場料6,000円を払うのにも関わらず、だ。
そして平均で2万円負ける為には、2.4時間で平均20万以上のお金を賭ける必要がある。
(ゲームによって控除率が異なるが、数の多い電子ゲームの控除率は10%未満である必要があり、控除率の低いブラックジャックバカラはプレイ方法にもよるが2%以下である。その場合、100~200万程度のお金を平均で賭ける必要がある)

 

そんなことが現実にありうるのだろうか。6,000円払って入場したのである。
普通もう少し長くプレイするか、最初から行かないかのどちらかになるのではないだろうか (このような非現実的な結果になってしまう理由については、次の章で考察する)。

 

また、外国人がIR施設でカジノ以外の娯楽に使う金額は平均で184円となっている。
しかも滞在期間が2.17日の設定なので、一日あたりだと85円である。
カジノ以外のIR区域内の娯楽施設には、外国人はほぼ足を運ばないようだ。

計画書には「魅力増進施設」として三道体験スタジオ、関西ジャパンハウス、関西アート&カルチャーミュージアムなどを設置し、
「日本の魅力の発信ならびに大阪IRへの来訪及び滞在促進を図る」と書いてあるが、
試算によると残念ながら日本の魅力は外国人に伝わらないようだ。

 

さて、消費単価と客数を掛けることによって、部門ごとの消費額を出すことができる。

 

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表5: 本試算によるIR施設内消費額のまとめ

 

事業者はカジノ以外の売上を1,000億円と主張しているが、
この試算によると飲食、宿泊、買い物、娯楽部門だけでもその数字の1.6倍になっている (MICEの会場費などは含まれていない)。これについては次の章で私見を述べる。

 

私見: 何故こうなってしまったか

 日本統研が、カジノのGGR4933億円とIR施設来場者数2,000万人、更にカジノ施設来場者数1,610万人という事業者の出した数字をなんとか捻り出そうと、この試算に苦心したことは間違いないだろう。

IR施設の方が、他の施設よりも消費額が多いという仮定を置いていたが、それならばGGRの分だけ消費金額を増やすこともできただろう。

 

そうしなかったのは、来場者数が非現実的過ぎて、そのまま統計値を適用すると他の部門が過大になってしまうからだろう。
終結果も事業者の主張する数字の1.6倍になってしまっているが、
これでも数字をなんとか抑えようとした跡が見える。

 

例えば外国人の娯楽費を削らないと (単価2,481円減)、トータルで消費額 (売上)が更に156億円上昇してしまうし、日帰り客の買い物単価を4,064円削らないと、
売上が439億円上がってしまう。

日帰り客の滞在時間が極端に少ない原因の一端もここにあるだろう。
ここを長くしてしまうと、2.4時間につき売上が82億円上振れてしまう。
更にいうなら、宿泊客が長い時間カジノに滞在するとなると、日帰り客はこのくらいのペースで回転してもらないとカジノの席が足りなくなってしまう

 

結局、IR施設来場者2,000万人、カジノ来場者1,610万人で、GGR4,933億円、非カジノ部門売上1.000億円という事業者の主張する数字が荒唐無稽なのである。
カジノにはそんな人は入らないし、仮に本当にそれだけの人数が来るなら、
非カジノ部門売上1.000億円というのは少なすぎる


IRの投資額が膨らんでいるので、リターンを大きく見せるためにGGRや来場者数を盛った結果、物理的に不可能なレベルの人数をカジノに押し込まないといけなくなったのである。

 

オリックスが株主説明会で語った言葉が本当であるなら、海外旅行者の数字が激減し、特に買い物代と宿泊費が激減するだろう。

外国人がほとんど居なくなれば、日本人1,000万人にゆっくりと半日かけて平均5万円負けて貰えばGGRの帳尻は合う

しかし、これはカジノに1日2万人を釘付けにして100万円近くを賭けさせるということなので、IR施設は完全に賭場になり、当然経済への波及効果は、無いどころかマイナスである。

 

このIR計画によって、大阪市民と事業者と大阪府市が3方よしになる可能性はゼロであると言っていいだろう。

夢洲の工事費は総額いくらになるか分からない状況の中、
35年+延長30年という途方も無く長い計画を、この程度の、試算とも言えない数字遊びを基にして進めていいものか。もっと真面目に考えないと、今後計画の無理が露呈し、方向転換や下方修正を余儀なくされる時、まず割りを食うのは市民である。

 

次回は経済波及効果の試算について解説していく。今回の試算も酷かったが、経済波及効果の試算はこれ以上である。

何故なら、事業者の数字が全て正しく、経済波及効果の計算に用いる古い統計データが現在にも当てはまると考えても、数字を倍に盛っているからである。

長くなるの、今回は一端ここまでとする。

 

 

遅ればせながら初めまして

最初の投稿から20日も経ってしまい、今更感はあるが、簡単な自己紹介とこのブログの趣旨説明を行いたいと思う。

 

 

私は所謂ゆとり世代である。小学校高学年から高校卒業までゆとり教育であったため、ゆとり真只中であると言える。

中我々の世代は世の中的には失敗と見なされることが多く、この世代を揶揄する論評は私が中学生の頃には既に見受けられた。

 

ほとんどの論評は、取るに足らないものであったが、勝手にゆとり教育を推進しておいて失敗扱いしてくる社会に対して、私は反感を覚え、そして関心を無くしていった。

 

私は20代の後半まで、社会は自分に関係無いものとして、社会を見ることすら放棄していたのである。

その間に、日本は落ちるところまで落ちていた。国力が落ち、格差が開いて低所得層が増える一方で、権力の腐敗は見るに耐えない。

被害者面をして見て見ぬ振りをしていた私は、この衰退に加担したと言えるだろう。子供の時に、自分達の失敗を無視して我々の世代を失敗扱いする大人に対して嫌悪感を抱いていたが、いつの間にか今の子供に非難されても仕方のない存在になっていた。

 

本ブログは、社会から逃げていた事についての私の贖罪である。こんなものを書いたとしても、日本のこれからに影響があるわけではないことは分かっているので、これは今後に対してのアリバイ作りとも言えるだろう。それでも私のちっぽけな自己顕示欲がこれを書かせている。

 

というわけで、このブログは100%自分の為のブログである。しかし、自らが社会の害悪にならないために、ここで自戒をしておこう。

 

・批判する時は、徹底的に調べ、問題点を明示すること

・間違えは誠意を持って改めること

何かを批判することは、自分の正当性を支持する根拠にはなり得ない。常に自分の正当性を疑うこと

 

巷では相手を下げることで議論を優位にする (した気になる)行為や、論点を明示しない議論の真似事、批判になっていない感情的な非難が日常的に見られるが、それだけはしないように気をつけていきたい。

夢洲カジノは世界に誇るIRか、それとも巨大なパチンコ屋か、計画書を読んで検証した

 現在、大阪で特定複合観光施設 (いわゆるIR)の誘致が本格的に走り出そうとしている。設置運営事業予定者がMGM・オリックス コンソーシアムに決まり、その計画案が公開されたのである。

「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」(案) (以下本計画)

 

さて、IRの肝は、皆様ご存知の通りカジノであろう。実際、本計画でも、収益の約8割がカジノ部門によって占められると想定されている(本計画要求基準4 1/3)。

最近、大阪府知事大阪市長が、「年間1,070億円の納付金が府市に入ってくる」と熱弁しているが、果たしてそれが達成され時、そのカジノはどのようなカジノになっているのだろうか。

そこで、本稿ではIRの是非などを一旦抜きにして、この計画書通りに順調に事業が進んだとして、どのようなカジノになるのかについて、試算を見ながら考えていきたい。

 

0.入場制限などの法令

 本計画書の内容に入る前に、まずは 関連する法令1による規定を確認する。
まず、20歳未満の者は、カジノ施設への入場を認められない。
また、日本人や日本に住居を持つ外国人には、次の制限がある。

A: 6,000円の入場料を課される (24時間以内なら退場、再入場は自由。24時間が経過す
    ると、再び入場料を払う必要がある)

B: 7日間の入場回数は3回以下

C: 28日間の入場回数は10回以下

 

日本人が1年間に入場できる回数を計算すると、最大121回となる。

なお、入場料は6,000円だが、これは国と都道府県に3,000円ずつ納付される。
また、カジノの売り上げには、競馬やパチンコと同じように納付金が発生する。
この納付金は、国と都道府県に対して、
ゲーム粗収入 (GGR*)の15%ずつと決められている。

 

*GGRとは

簡単に言うと、お客さんがギャンブルで負けた金額の合計である。
例として、次の単純なケースを考える。

10人の客が現金を100万円ずつチップに変え、色々なゲームで遊び、最後に換金する。
2人は200万円になり、残りの8人は50万円に減った。
この時のGGRは、 (50万円 x 8 )- (100万円 x 2) = 200万円である。

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GGRとはギャンブルの勝ち負け金額の総和である

 

カジノのゲームは基本的にカジノ側が儲かるようにできているので、お客さんの数が余程少なくない限りGGRがマイナスになることはない。
ただし、これにはディーラーの人件費やカジノの維持費は含まれていないので、
GGR = 利益ではない点には注意。

 

1. カジノ施設の規模

 

 暫定計画値で、カジノ施設全体の延床面積は65,166㎡(東京ドームの約1.4倍)、
そのうちゲーミング区域(ルーレットやスロットなど、カジノゲームを行う区域と、運営管理や監視を行う区域)は23,115㎡である(本計画要求基準2 1/2)。

なお、ゲーミング区画は法令2によってIR施設全体の総床面積の3%未満に制限されている。暫定計画の総床面積は770,525㎡で、その3%は23,115.75㎡なので、限界までゲーミング区域を取っていることがわかる。

因みに、2019年末のコミックマーケットの企業ブースとして使われた東京国際展示場の青海展示場が23,240㎡だったので、コミケの企業ブースが丸々賭場になっていると想像してもらえるとわかりやすいかもしれない。大きさ的には世界最大級と言っていいだろう 。

 

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2019年冬コミの企業ブース。この会場全体が賭場になる計算だ
(写真はコミケットHPより転載3

 

  カジノゲームとしては、テーブルゲーム (ルーレットやバカラなど)470台、電子ゲーム(スロットやビデオポーカー、ビデオバカラなど)6,400台を設置する予定である(本計画要求基準2 1/2)。
デーブルゲームの数はシンガポールマカオなど、成功モデルとされている大型カジノと同じくらい~やや少ないくらいであるが、それらのカジノにある電子ゲームは1,000~2,500台程なので4, 5、6,400台というのは物凄い数である。
日本最大のパチンコホールでも3,000台6なので、電子ゲームだけでもその倍の規模になる。

6,400台の電子ゲーム台それぞれに1人ずつ座り、470台のデーブルゲームそれぞれで平均10人がプレイするとして、一度にプレイできる最大の客数は約1.1万人である。

(1テーブルでプレイできる客の数はゲームによって異なる。ブラックジャックやミニバカラで7人、椅子を使わないクラップスやルーレットで最大16人ほどであるが、VIPテーブルの場合は1テーブルあたりの人数は最大値よりも大幅に少なくなることだろう。電子ゲームの種類や台数のカウントの方法、テーブルの配分が分からないのではっきりしたことは言えないが、何をどう頑張っても同時にプレイできる人数は2万人に満たないだろう)。

 

 カジノ施設は3層構造を予定しており、各層がレートによって区分されるようである(本計画評価基準14 2/3)。

第1層はマス・ゲーミング・フロアで、賭ける金額の少ないゲームが配置される。恐らく、電子ゲームの大半はこのフロアに配置されるだろう。

第2層の1部はプレミア・ゲーミング・フロアとなっており、マス・ゲーミング・フロアよりも賭け金が多いゲームが配置される。多くのテーブルゲームや、レートの高い電子ゲームが配置されるだろう。

そして、第2層の残りと最上層は、VIPゲーミング・フロアとなる。この層では、静かさやプレイバシーを保つために他のフロアよりもテーブル毎のスペースを取り、個室も多く用意されることだろう。
この層には超高額賭け金のテーブルゲームが置かれることになる(レートは不明だが、マカオシンガポールなどのカジノでは、1回に2,000万円を賭けることができるテーブルも存在する)。

 

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かなりざっくりとしたカジノのフロア構成 のイメージ(本計画評価基準25 2/17)

 

 

2. カジノ来場者

 日本人と外国人を合わせたカジノ来場者は、開業3年目期に年間約1,610万人(1日当たり4.41万人)を想定している(本計画要求基準4 1/3)。
算出根拠については、「国内人口、国内旅行者数、訪日外国人 旅行者数等の直近の推移、先行する海外IRにおける集客実績等を踏まえて試算した結果」らしい。

なお、夢洲よりも6 km大阪市中央市街に近い(夢洲に行くためには橋を2回渡る必要がる)ユニバーサルスタジオ・ジャパンの2019年の来場者数は1,450万人である7。施設の大きさを加味すれば(USJのパーク面積は43万㎡)、
カジノ内入れるのは20歳以上に限られることも合わせて、USJなど比較にならないくらいの人気スポットであると言えるだろう。

因みに、現在ゴミの埋め立てとコンテナターミナルとして利用されている夢洲ではあるが、上下2車線ずつしかない此花大橋と夢洲大橋が「万博のために」6車線化され、立体交差点ができ、さらにコスモスクエアから地下鉄が延伸されるので、現在コンテナを積んだトラックだけで渋滞ができる脆弱な交通アクセスも、開業時には改善されている・・・らしい。

 

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「万博の為の」夢洲交通網整備

 

3: 入場料と納付金

知事や大阪市長が言う年間1,060億円というのは、
カジノへの入場者が払う入場料と、カジノが売上から収める納付金の合計1,060億円の試算のことである(本計画要求基準17 1/3)。
では、この金額が大阪に入って来るとき、カジノはどうなっているか、それぞれ見ていこう。


3-1. 入場料

 本計画では、大阪府大阪市に納付される入場料を年間320億円としている(本計画要求基準17 1/3)。入場料が納付されるのはあくまで大阪府と国であるが、大阪府は府に納付された額を市と折半する計画である。

前述の通り、府が受け取る入場料は日本人、在日外国人1人当たり3,000円であるため、ここから1年間に何人の日本人又は在日外国人がカジノに来ることが計画されているかがわかる。計算するとその数は1,066万人であり、1日当たりに換算すると2.92万人である。
さらに、総来場者数が1,610万人であるから、外国人の客数が年間544万人、1日あたり1.49万人であることがわかる。日本在住者と外国人訪日者との比率が2:1であり、インバウンドの成功例とされているシンガポールのカジノにおけるシンガポール人と外国人の比率と(1:2、 2016年)真逆であるため8、ターゲットとして日本在住の人を重視していると言えるだろう。

 

  ところで、1日平均の全入場者数は4.41万人で、これはカジノの最大プレイ人数の400%程であるが、当然毎日同じ人数が来るということはない。
外国人旅行者はともかく、日本在住の客は平日の特に昼間は少なくなり、休日前の夜から増えることになるだろう(世界中のほとんどのカジノは夜の方が賑わっている)。

2022年のカレンダーベースで、年末年始の休みを前後3日ずつ、お盆休みを8/11-14とすると、平日は245日、休日が120日である。
平日の日本在住の客数が8,000人少なく、日本人2.12万人、外国人旅行者1.49万人の合計3.61万人(平均値の約82%)とすると、休日の入場者数の合計はUSJの収容定員である6万人に到達する。
このケースだと、休日には客が平均4時間くらいで総入替になるくらいの回転率が求められることになる。その場合、平日でも稼働率は300%を超えるので、少なくとも夜は平日でも満員になっているだろう。
そして、日本人は入場料6,000円を払う必要があるから、この回転率を達成する客層は、お金に余裕のある高給サラリーマンか、わざわざ6,000円払って入場し、直ぐに負けてそのまま帰ってくれる行儀の良い人たちが大半だと考えられる(あるいは、関西のテレビで維新とIRを絶賛する吉本の芸人か)。

 なお、外国人が夢洲へ最寄りの国際空港(関西国際空港)からタクシーなりハイヤーで向かう場合、走行距離は47.4 kmあり、早くても40分はかかる(グーグルマップで計測)。
一方で、海外にある外国人から人気のカジノは、空港から遠くても20 km未満にあるところが殆どである(例をあげると、MGMが運営するカジノで、ラスベガスのベラージオは空港から約5.1 km、マカオのMGMマカオは空港から9.1 kmである。他の会社のカジノでも、シンガポールのマリーナベイサンズは空港から9.4 km、少し遠いワールドリゾートセントーサでも空港から16.7 kmである)。
外国人から見た立地の面で海外のカジノに完敗しているが、それでも何故か年間500万人を超える人が「ここにしかない最高のエンターテイメント(本計画評価基準1 4/6、コンセプトより)」を求めてカジノへやってくるのだという。

 

3-2. 納付金

 本計画では、大阪府大阪市に納付される納付金を年間740億円としている(本計画要求基準17 1/3)。前述の通り、府に入るのはGGRの15%なので、ここから想定されるGGR、つまり客の負け金額の合計は4,933億円となる。

これは、パンデミック前に世界で最も売上が高いカジノであったギャラクシー・マカオのGGR (約5,972億円、2019年9)には及ばないものの、シンガポールにある2つのカジノのGGRの合計 (約3,685億円、2019年10)よりは多いため、世界的に見てもかなりの高収益カジノになるという予想になっている。

なお、ギャラクシー・マカオも、シンガポールのカジノも、収益の33%~47%は少数のVIPによるものである9, 11。VIP無しには目標のGGRを達成するのは難しいので、これまで海外のカジノに行っていた日本のお金持ちがこぞって集結していることだろう*。

 

*VIPについて

 少し詳細に言うと、VIP部門のGGRについては、数字をそのまま日本に適用するのは不可能である。
特に、マカオのVIP部門の稼ぎの大半はジャンケットと呼ばれる、顧客の斡旋、接待、賭場の運営、賭け金の貸し出しなどを引き受ける業者の力が必要不可欠だからである。

特に賭場の運営と、賭け金の貸し出しは重要な要素である。海外で超高レートのギャンブルをする為には、それ相応の現金を持ち出さないといけないが、殆どの国では、入管の際に一定以上の現金を持ち込む時は、税関に申告が必要である(日本だと100万円分以上12)。
クレジットカードでもチップを購入できるが、その場合の3~5%の手数料が必要になる上、1億円があっという間に動く世界では、利用限度額無しのブラックカードでもない限り厳しいだろう。

そこで、ジャンケットにお金を借りて(あるいは出国前に払って)専用のチップを購入し、そのジャンケットがカジノから借りている専用のVIPルームでゲームに興じるのである。この専用のチップは、VIPルーム以外で使えない上に一度賭けないと換金もできず、VIPと胴元の間を行き来することからローリングチップと呼ばれる。負けが込んで元金が無くなれば、追加でシャンケットが金を貸し出す
10年以上前に大王製紙の当時の代表取締役であった井川意高が100億円以上をカジノで負け、会社の金を横領した事件が話題となったが13、こんなことが起こるのも、カジノで負けた客にその場で金を貸し出すジャンケットがいたからである。

しかし、中国当局は、資金の流出を防ぐ為にジャンケットへの取締を強めており、2015年に規制の強化を強めると、兆円単位で売り上げが減少した(下図、10億香港ドルは現在約140億円)。マカオの圧倒的なGGRは、ジャンケットによって支えられて来たことは明らかである。

 

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マカオのGGRの合計とマカオへの来訪者数。赤矢印が中国当局の取締強化の時期で、
大きくVIP部門が減少していることがわかる
(グラフはマカオの統計局2010-2019年のデータより作成14)。

 

シンガポールは、ジャンケットによる賭場の運営は許可していないが、斡旋や賭け金の貸し出しは、政府が認めた業者に限り許可している。
日本では現在外国人来訪者への賭け金の貸し出しやカジノ以外に賭場の運営を許可する方針は無いため15マカオシンガポール程の海外VIPの売り上げは期待出来そうに無い。

 

4. ここまでのまとめ~大阪府市に年間1,060億円が入ってくる時、何が起こるか~

 大阪府大阪市が主張する府市にカジノから年間1,060億円が入ってくるということは、まとめると、

「誰もいない現時点でも交通渋滞を引き起こしていたゴミ埋め立て地兼コンテナターミ

ナルである、関空から40 km以上も離れた僻地の夢洲が、カジノができただけで、年間

1,610万人が訪れるようになり、開発によってアクセスは極めて良好になり、競合カジノ

を押しのけて世界中から観光客やVIPが訪れまくって毎日カジノにお金を流してくれて、

日本人は6,000円取られるけどそんなことは気にしないジェントルマンが数時間で有り

金を溶かして帰っていき、夜な夜な仕事終わりの高収入サラリーマンが睡眠時間を削っ

てゲームをし続け、日本の社長さんやお金を持て余した芸能人がこぞってVIPルームに

訪れ連日億単位の金を賭けてきて、世界最高水準の売上を誇る日本最大級の人気ス

ポットになった

ということである。 まるでライトノベルタイトルのようだ。とても夢のある素晴らしい計画であるといえよう。


なお、この夢物語を語る際には、カジノで負けたお金で買えていたはずの物やサービスが買えなくなる事によるIR区域外への消費抑制効果や、そもそもIRというビジネスモデルがカジノに客を釘付けにして、全ての消費をIR内でさせるので、儲かるのはIR業者だけで、周辺への経済効果は殆ど無いことについては触れてはいけない。

 

 仕事も家庭もある高収入のサラリーマンであっても、夜な夜なカジノに通い、終電や始発で帰る、そんな人が溢れる大阪、かつて大阪府知事時代、橋下徹氏が

「ちっちゃいころからギャンブルを積み重ね、勝負師にならないと世界に勝てない。猥雑なものやエンターテインメントはすべて大阪が引き受ける16。」

と言っていたが、これが実現したならば、橋下氏が理想とした世界が到来したと言っていいだろう。

 

5. 何故か3倍近くになったカジノ入場者

 カジノ関係のところだけをピックアップしてみたが、他にも地震津波対策、オンライン化が進んだ事によるMICE設備への需要の低下の懸念など、他にも気になることはいくつもある。

 実は、入場料や納付金、来場者数について、府市は2019年2月12日、第17回副首都推進本部会議で公表された数字17を2年以上用いていたのだが、事業者が決まってからカジノ関係の数字が上方修正され、それ以外の数字が下方修正されたのであった(下表)。

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カジノ関係の数字の推移(表は上記会議資料3-2と本計画書から計算・作成)

 

ご覧の通り、特にカジノへの入場人数が大幅な増大を見せている。大阪府市IR推進局は、住民説明会において、試算の根拠と変更の理由、並びにその変更理由が書かれていない理由について問われた。それについてのIR推進局の回答は以下の通りである18

「まず、納付金、入場料の金額の違いでございます。 2019 年の、おっしゃっておられました700億円は、我々、大阪府・市がめざす姿として、大阪IR基本構想というものを策定し、大阪府・市として試算した数字でございます。今回の計画(案)に記載しております 1,060 億円につきましては、事業者が自らの知見等をもって試算したものでございまして、試算している主体が異なっているということですので、両者を単純比較することは、適切でないかと考えております。」

回答になっていないが、とりあえず、今回の試算は事業者によるものだと言いたいらしい。また、筆者が問い合わせたところ、大阪府市は、計画書上の数字について、了承している、つまり、数字を出したのは事業者側だが、大阪府市として、ある程度あり得る数字だと考えているということだった。

仮に事業者側の数字の方が正しいのであれば、自分達が出した数字が事業者からしたら全くの検討違いだったという、自身たちに対しての無能宣言であり、さらにそんな数字を2年以上使い続けていたことについて、変更を周知する努力をしないという不誠実・無気力ぶりである(本気でIRを推移したいのであれば、自分たちがIRのポテンシャルを大幅に過小評価していたことになるので、変更箇所のまとめと理由の説明資料くらい作ればいいだろう)。

 府市に収益の見積もりが出来ないことは大阪市廃止の住民投票の際にも明らかだったので、回答には期待していなかったのだが、しかしこの数字を事業者が出してきたと聞いた時は正直驚いた。事業者がこんな滅茶苦茶な試算を出して来るとはあまり思っておらず、てっきり大阪府市(か維新の会)が要求する数字を出したと考えていたからだ。

 

6. 夢物語の崩壊

 しかし、そんな筆者の疑問を解決してくれたのは、他でもない設置運営事業予定者であるオリックスのCEO、井上亮氏であった。
氏は、2021年11月4日、オンラインで行われた2022年月期第2四半期決算説明会において19、IR計画について、コロナという不透明性がある中で、大阪府市が2019年に発表した数値を上方修正したのは何故か、また今後の費用対効果などの見通しはどうなっているか」という趣旨の質問を受けた際に、全ての答え合わせとなるような返答を行っていた。以下に全文を書き起こす。

「MICE・IRのこの数字は基本的には大阪府市が作成したものに対して我々がどこまでいけるかの数字で、基本的に仮置きだと思ってください
元々インバウンド等を勘案した上で数年前からやっていましたけど、今は、客は全員日本人。日本人だけでどこまで回るか、その前提でプランニングを作っています。
これも非常に難しい計算ですけども、10年、20年、何年くらいこれやれるか、っていうのがありますけども、十分10%以上のIRRは回せる、ということを前提にこの試算をしております。
MGMは我々の試算の約倍の数字を出してきていますけど、これはもう、私どもはあんまりアテにしないで。我々のコンサバティブな数字を作った上で、日本の投資家だけで、日本の顧客だけで、やってみて、そのくらいのレベルになるだろうということで進めているというふうにご理解ください(リンク元動画57:07-58:18)。」

  衝撃的な言葉が並んでいるが、一つ一つみていこう。

 

「数字は仮置き」

この一言だけで、この計画書を読むことが無意味であることがわかるだろう。全ての試算はもちろん不確実なものだが、それにしても「仮置き」は強烈である。
普通「推計値」とか「誤差を多分に含む」とか言いそうなところを「仮置き」、
即ちそれっぽい数字を当てはめているだけだと答えたわけである。

 

「客は全員日本人」

インバウンドとはなんだったのかと言いたくなる。

本計画書内の 区域整備計画の意義及び目標の、「観光立国を実現するためには、世界中から新たに人・モノ・投資を呼び込むIRの導入は不可欠である」という意義に反しており、目標の(評価基準 1 2/6)、

(1) 世界水準のオールインワンMICE拠点の形成、

(2) 国内外からの集客力強化への貢献、

(3) 日本観光のゲートウェイの形成

のいずれも満たさない。

筆者も、IRというのは収益率の高いカジノが主体であり、その他の施設はカジノに人を呼び込む為か、法律上の規制の為に仕方なく運営しているというIRのビジネスモデルについては重々承知しており、この辺りの記述は行政文章の定型句として書いているのは分かるが、これで通るなら行政の役割とはなんなのかと言いたくなる。

なお、海外からの集客と収益化が難しいのは先の述べた通りで、それをアテにしていないオリックスの試算は営利企業としては真っ当である。最も、分かった上でこのような計画書を行政に提出するのは、社会にとっては不利益であるが。
名目上の目的であった世界からの投資を捨て去ってしまったら、そのIR施設はもはや巨大なパチンコ屋と大差ない

 

「10年、20年、何年くらいこれやれるか、」

一見取り上げるべき箇所に思えないかもしれないが、実に驚くべき発言である。というのも本事業の土地賃貸契約年数は35年+延長30年なのである(本計画要求基準4 1/3、11 1/2)。
ということはオリックスとしては契約満了前に本事業を売却、廃業する可能性を検討しているということである。その後の発言と合わせて、利益が不十分であれば事業を手放す算段のようだ。

 

「MGMは我々の試算の約倍の数字を出してきていますけど、これはもう、私どもはあんまりアテにしない」

MGMはどこからその自信が出てくのか是非説明してほしい。
MGMの中で最も売上がいいのはマカオ部門である。現在マカオで2つのカジノ (MGM Macau, MGM Cotai)を運営しているが、そのGGRは合計でも3,800億円程度であり、
しかもジャンケットの寄与を抜くとこの数字はさらに1,000億円以上ダウンする。テーブル数も、2つのカジノを足せば(530台)、夢洲の予定(470台)を上回っているにも関わらず、だ(ついでに、スロットのような電子ゲームが、テーブルゲームに比べて収益率が非常に低いことがわかるだろう)。


ジャンケット全盛であった2013年でも5,000億円(内3,000億円以上はジャンケットの寄与)であったのに、どう計算したら今後日本で、一つのカジノで1兆円近いGGRを叩き出すつもりだろうか。

 

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MGM China社のGGRとゲームテーブル数の推移 (2010~2019Annual reportより作成20)

 

MGMとオリックスとの齟齬も気になるところである。そもそも、事業者同士ですら意見が合っていない物に対して、府民パブリックコメントを求めるのはやめて頂きたいものだ。

 

7. 結論

 つまり、今回の計画は、

「計画書一応作りましたけどただの仮置きなので意味はありません。作るのは色々なゲームを遊べる巨大なパチンコ屋です。そこに大量の日本人を毎回6,000円払わせながら集め、お金を搾り取ることによって、事業者は少なくとも儲かります。もし儲からなかったら辞めます。」

ということだ。事業者にとっても、推進する府市と維新の会にとっても、さらに大阪府民にとっても、この計画自体が大博打である。
そして、これが現状最大の、そして唯一と言っていい大阪の成長戦略なのだ。

 

「パチンコ屋が私達の最大の成長戦略です。」と胸を張って言えるのであれば、それでいいかもしれない、だが、そうでないなら、こんな杜撰とすれいえない計画は捨て去った方がいいだろう。

 

<Reference>

1. 特定複合観光施設区域整備法

2. 特定複合観光施設区域整備法施行令第6条

3. https://www.comiket.co.jp/info-a/C97/C97AfterReport.html

4: https://s28.q4cdn.com/640198178/files/doc_financials/2019/ar/LVS-2019-Annual-Report.pdf

5: https://s22.q4cdn.com/513010314/files/doc_financials/annual/2019/2019-MGM-Annual-Report.pdf

6. https://www.p-world.co.jp/saitama/rakuen-oomiyashinkan.htm

7. https://www.teaconnect.org/images/files/TEA_369_18301_201201.pdf

8.https://www.city.osaka.lg.jp/shikai/cmsfiles/contents/0000391/391879/12.21.pdf

9: https://www.galaxyentertainment.com/uploads/investor/6f8376152529e2bcfe0c5998b25aabd2e088b9cf.pdf

10: https://www.ggrasia.com/singapore-casino-revenue-75pct-of-2019-in-2022-fitch/

11: https://s28.q4cdn.com/640198178/files/doc_financials/2019/ar/LVS-2019-Annual-Report.pdf

12: https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/keitaibetsuso/7305_jr.htm

13: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%8E%8B%E8%A3%BD%E7%B4%99%E4%BA%8B%E4%BB%B6

14: https://www.dsec.gov.mo/en-US/Home/Publication/MacaoInFigures

15: https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ir_promotion/ir_kaigi/dai7/siryou3.pdf

16: https://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-11-03/2010110304_02_1.html

17: https://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/cmsfiles/contents/0000461/461104/05_shiryou3-3syusei.pdf

18: https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/42379/00000000/situgigaiyo2.pdf

19: https://www.irwebcasting.com/20211104/1/acaaca0bee/mov/main/index.html

20: https://en.mgmchinaholdings.com/IR-Annual-and-Interim-Reports