大阪・関西万博の海外パビリオン建設が遅れる理由

 2025年4月13日から開催が予定されている2025年日本国際博覧会 (通称: 大阪・関西万博)については、特にコスト増や海外パビリオンの建設が遅れていることが大きく報道されている。

 

当ブログでは今までほとんど取り扱ってこなかったこの問題だが、取り上げるまでもなく失敗が見えていると感じていた。正直な話、2022年10月に万博協会が発表した来場者輸送具体方針が、夢洲への輸送能力が不足している現実をクッキリと示していたのに、その後当時の松井市長がペット会場への同伴許可を要請したというニュースが流れた時、乾いた笑いが出た。本気で万博を成功させようという気概が全く感じられなかったからである。

 

 個人的には、それ以上に信頼性の低い予測来場者数 (2,820万人)を絶対のものとして全ての計画が組まれ、それ故にアクセスが崩壊していることや、そもそも現在の日本で万博やオリンピックといった一過性のイベントを開催する際に避けられない「構造的な無責任」の方が問題であると考えるが、コスト増による税負担や海外パビリオンの遅れを揶揄した「大阪◯博」 といった話題の方が多くの人に刺さるのだろう。今回は海外パビリオンの話に絞り、それ以外の話は次回以降に回そう。

 

 

連日この話題が報道されているが、それだけを見ていても、海外パビリオンの遅れ問題の本質が見えてこない。夏ごろに最も進んでいる報道されていたのは韓国とチェコであるが、韓国については近影が全く報道されず、チェコについては一転、厳しい内実が11月に入ってから報道されていた。

digital.asahi.com

 

そこで、どの国が計画通りにパビリオンを期間内に建てられる可能性が高く、どの国が厳しいか、事例を見ながら考えよう。

 

韓国

 韓国は最初に基本計画書を大阪市に提出し、当時は最も進んだ国であると報道されていた。8月には、2024年11月にパビリオンの工事が完了するという計画であることが報道されていた。

www.hokkaido-np.co.jp

しかし、それから全く音沙汰がない。この報道が出た時、実はパビリオンの施工業者を公募している最中であった。

www.kotra.or.kr

 

この公募によると、工期は11ヶ月とある。先の記事と合わせると、業者選定後、工事が始まるまで4ヶ月ほどかかる計算になる。

それは当然で、施工業者も落札したすぐ次の日から工事、とはならない。資材確保の目処は落札前に付けているだろうが、それらを発注したり、具体的な計画練ったりするには時間が必要だ。

 

さて、実はこの公募は落札されず、9月に再入札が行われている。5日に公示し、落札予定日は18日というスピード入札だ。

この入札に際して仕様変更は行われず、11ヶ月という工期や187億ウォンという落札予定価格はそのままだった。

www.kotra.or.kr

 

結局落札予定日の18日には結果は公示されず (最初の入札も、落札予定日には何の知らせもなかった)、そこから一切の進展はない。2度目の入札も不落に終わったと見るべきだろう。

 

 恐らく、施工業者が見つからないので、仕様の変更を余儀なくされていると推察される。単純な落札予定価格の引き上げと工期の後ろ倒しでは間に合わない (11月末に施工業者が決まったとして、施工開始は3月、工事が終わるのは2月。これでは、内装工事やスタッフの訓練などに必要時間が取れない)。

 

基本計画を真っ先に提出しながら、仮設建築物許可申請に進めないのは、このような事情があるからだろう。

 

チェコ

 チェコは最も早く仮設建築物許可が降りた国として報道された。その後、パビリオンの仕様が万博協会の定める基準に違反しているのでは、との疑念が持たれていたが、筆者はそれとは別の方向で、チェコの計画は上手く進まないと考えていた。

 

何故なら、チェコはまだ施工業者が決まっておらず、その入札予定日はなんと2023年12月~2024年1月とされていたからである。

expo2025czechia.com

 

この予定では工期が間に合わないと思っていたが、どうやらこれはチェコの法律によるらしい  (上記の朝日新聞の記事より)。しかし、建設許可が出ないと施工業者の入札ができないとなると、かなり厳しい状況である。開催が迫れば迫るほど、施工業者も準備や工期に余裕が無くなり、入札しづらくなるだろう。

 

日本のパビリオンは本当の意味で順調なのか

このように、外国にとって今一番難しいのは計画を立てることでも、申請を行うことでもなく、計画を実行に移す施工業者を探すことだろう。基本計画書を提出していたブラジルがタイプXに移行したのがその例である。

www.sankei.com

 

10月末の時点で施工業者が決定している国は24カ国と言われている。現在、タイプAから計画変更したと伝えられている国はブラジルやナイジェリアなど5カ国。メキシコは参加自体を正式に取りやめた。しかし、これでもまだ20カ国以上の施工業者が決まっていないことになる。

 

仮設建築物許可申請を行なった4ヵ国の内、先述したチェコモナコは施工業者が決まっていないようなので、順調と言える国はルクセンブルクとベルギーしかない。

 

施工業者が決まっている24ヵ国は、順調とは言えなくとも、その国だけが工事するのなら間に合う可能性が高いだろう。しかし、工事が集中したとき、果たして全ての国が工程通り工事を進めることができるのか、それはまだわからない。

 

 一部では日本のパビリオンは順調であり、海外の準備が遅いのが悪いという声もあるが、筆者からすると土地勘のある日本の企業や万博協会が先にリソースを確保していて、その影響を法律や建築基準の異なる海外に押し付けているように見える。

当初の予定通りだと、会場への電気供給が整うのは2024年7月 (1~2ヶ月前倒しに変更)、下水インフラが整うのは2025年4月であった (3ヶ月前倒しに変更)。詳しくは下の資料を読んでもらいたい。まだ工事が集中していない今でも様々な問題が表面化しているが、「当初の予定通り」進んだとしたら、更なる混乱が広がっていたことは想像に難くない。

https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/uploads/231110_01_01_PVkaizenn.pdf

(ところで、この資料は日本語版しかないのだろうか。この辺りも海外の参加者にとっては辛いところである)

 

参加国がストレス無く展示環境を整えられる環境を整備することは開催国の責務である。

万博を世界中の国が集まる素晴らしい機会だと語るのであれば、その土壌を十分に整備できていない万博協会を批判せず、万博を礼賛することが果たして正しいことなのか、よく考えてもらいたい

 

 愛・地球博の海外パビリオンは、全て協会が発注したプレハブであった。しかし、海外パビリオンが特別にショボかったとは言われていなかったと思う。

 

最初から形式がそうだと決まっていれば、外国もそれに合わせて展示を準備しただろう。ドバイ万博から時間がなかったこと、 建設2024年問題、(結果的にとはいえ)万博協会に海外との調整能力が欠けていたことを考えれば、開催まで2年を切ってから突然「タイプX」などと言い出すのではなく、最初から海外パビリオンをプレハブに統一することもできたはずだ。

その選択肢を放棄してタイプAを導入し、全てを外国に丸投げする姿勢は、この万博を取り巻く無責任を端的に表しているといえる。

 

打ち上げれば終わりの打ち上げ花火でも、打ち上げるまでには入念な準備が必要である。身の丈に合った計画が立てらない者は、花火で盛り上げることすらできない。

東京オリンピックの中抜きが問題になったとき、祝賀資本主義という言葉が取り上げられたら、今の日本には祝賀を取り繕うこともできなくなってきているのではないか、そんな疑問を抱かずにはいられない。