並ばない万博の完全崩壊、~後は野となれ山となれ~

 万博開幕までいよいよあと1ヶ月となったが、残り50日を切ったタイミングで、大きな報道が飛び込んできた。

 

2025年2月25日、万博協会より正式に、入場ゲート前での当日券の発売がアナウンスされた。同日には、通期パス・夏パスの予約制限の解除、当日券と通常券の中間のような簡単来場予約チケット (仮称)の導入など、様々な変更が一挙に報じられた。

 

当日券販売のアナウンス

夏パス・通期パスの規制解除

簡単来場予約チケット (仮称)

中でも驚くべきは、パビリオンの予約に関する記述である。テーマ館やほぼ全ての企業館は、事前の予約が必須であったはずであるが、最新の記述を見ると、事前予約は必ずしも必要ないと書かれている。

予約制度を導入しているパビリオンは予約が必須だったはずだが・・・

実は、この制度変更は、はっきりとした時期はわからないが、2ヶ月前抽選の結果が出始めた2月13日~2月19日頃に突如としてチケットサイトに追加されたQ&Aでも示唆されていた。

 

2ヶ月前抽選開始後に突如として出現したQ&A

これが後付けで急遽追加されたのは、他の言語にこのQ&Aがないこと (2025/3/13日現在)からも明かである (なんなら、通期パスについても11時からしか入れないという、以前の仕様のQ&Aが削除されていない)。

この質問だけ英語ページが作られていない

中国語でも同様

(同じ内容のQ&Aが公式サイトにもあったが、ページの通し番号から明らかに超早期割特別抽選や2ヶ月前予約の結果が出始めるタイミングよりも後に公開されている)

超早期割の結果が出た後のQ&Aの番号は4545092499742

2ヶ月前予約の結果についてのQ&Aの番号は4683157063454

4683175919518>4683157063454>4545092499742で、このQ&Aは最も最近に作られている

 

これまでの書き方から、予約を行なっているパビリオンに入るためには、基本的には2ヶ月前抽選または7日前抽選 (+超早期割特別抽選)を行う必要があったはずで、当日当落は枠は3日前〜前日空き枠登録と同様に、あくまでキャンセルや予約が埋まらなかったパビリオンのみが対象であった (空き枠登録と当日登録が同じ扱いの枠なのかは、万博協会の返答にブレがあったが、現在ではそれぞれ一枠ずつということに決まったようだ)。

従来のパビリオン予約の説明。

空き枠登録・当日登録の説明

ところが、追加されたQ&Aには、

「特定のパビリオンやイベントを確実に観覧したい方には事前の予約もおすすめですが、事前予約の割合は全体の一部のみで、特定のイベントを除き、多くのパビリオン・イベントに十分な当日枠がございます。」

とあり、むしろ当日枠の方が潤沢に用意されている可能性すら感じさせる書き方になっている。

 

これは相当大きな方針転換である。

予約システムを利用するパビリオンの多くは、体験型のパビリオンであり、一枠当たりの定員が決まっている。そして、前回も述べたが、この定員は展示型やシアター型のパビリオンに比べて非常に少なくなっている。

 

例えば紹介記事本人のXから、落合館の会期全体のキャパは約50万人だそうだ。計算すると、1日あたりの人数は約2,700人、一回当たりの収容人数は150人弱になる。

落合館は内容的に展示+体験のハイブリッド型のようなので、純粋な体験型であるモンスターハンターや河森館の超時空シアター (1回30人)よりは多いが、それでも万博の1日あたりの目標平均来場者数15.4万人の1/1000以下であり、枠が余ることは基本的にはないだろう。であれば、このようなパビリオンは事前の予約が必須であったはずで、その方がいざ会場に入ってからその日に入館できないことが分かる・・・、といった事態を避けられるはずだ。しかし、この方針転換が与える影響は、そんなところに留まらない。

 

この突発的な変更がどのような影響を与えるか、一つ一つ見ていこう。

 

低すぎる事前抽選当選確率

 従来は、一つの抽選枠が、超早期割特別抽選、2ヶ月前抽選、7日前抽選で割られていた。

(前回の記事では、抽選ごとに枠が割り振られず、2ヶ月前抽選で全て埋まったら7日前抽選は行われないという仮定で書いていた。それは、一枠数十人の枠を抽選ごとに割り振ってしまうと、一回一回の当選確率が極端に下がってしまうので、その方が可能性が高いと思っていたからだ。しかし、どうやら最初から一部の例外を除いて各抽選毎に枠を割り振っていたようだ。)

これに当日枠が足され、さらに当日枠を十分に確保しようとすると、当然各抽選毎の枠は少なくなる。

以下例として、150人一枠の抽選枠がこの方針変更によってどれほど当たりづらくなったのかというイメージを示す。「十分な当日枠」がどれほどかはわからないが、半分以上確保しようとすると、それだけ2ヶ月前抽選と7日前抽選の当選確率が減少していく。以下の例では、超早期割の枠を30人、当日枠を50%以上確保すると仮定する。

 

当日枠導入による事前抽選への影響のイメージ。超早期割抽選は既に終了しているので、この枠は変えられない。結果として、2ヶ月前予約と7日前予約の枠が圧縮される

2ヶ月前抽選に5万人が申し込んだとしよう。5万人は1日あたりの目標平均来場者数の1/3以下であるが、それでもその内僅か0.05%の希望が被ると、5人に1人は落選する計算になる。

X上には特に開幕日の落選報告が数多く挙げられていたが、この例を見ているとむしろ当選する人の方が少ないのが自然なことが分かる。万博に熱心な層は、平日を狙う、時間を夕方以降にするなどの対策を編み出しているようだが、一枠150人でもこの確率なので、一枠数十人のパビリオンを事前に確保するのは容易ではない。

このように、最早事前抽選は「当たればラッキー」というものと考えた方が良さそうだ。

(一部のパビリオンは、旅行会社の団体旅行ツアー用に枠を割いているようだ。ツアーと重なる日は他の枠が更に圧縮されることになる)

 

では、この変更によって当日気軽にこのようなパビリオンを楽しめるようになったかというと、全くそうではないのが二つ目の問題である。

 

当日枠は会場直後に取り合いになる

 事前予約の枠を削って作り出した当日枠は、あくまで「当日に予約できる枠」である。そのため、タイミングが異なるとはいえ、予約が必要なことには変わりない。この点が、並べば入館できた従来の万博との大きな違いである。

 

では、その枠がいつ解放されるかというと、デジタルサイトの場合万博来場の10分後からである。会場内の予約機を使う場合も、当然来場後ということになる。そして、当日枠は先着順である。

元々の枠が限られているので、当日枠を全体の50%以上確保していても、結局当日枠は一枠10-100人程度に限定されるだろう。そうなると、人気のパビリオンについては9時に入場した来場者によってほぼ全ての枠が埋まってしまうことになる。

 

そうなると、朝9時に入場希望が集中しやすくなる。すると、次の問題が浮き彫りになる

 

朝の通勤時間帯に来場者が殺到し、万博来場者以外に影響が出る

 そもそも、様々なチケットの種類の導入の目的は会期後期の来場者の集中を緩和することであり、複雑な予約制度が導入された一番の理由は、道路や地下鉄の混雑を防ぐことであった。

2020年12月公表の基本計画にも、制度導入の理由は明記されている

来場者輸送計画では、前売り期間に開幕券や前期券を導入することで、閉幕期の混雑を前半に移動できるとシミュレーションされている

 

来場者輸送計画に明記された輸送能力の限界。これを見てわかる通り、まずメトロ以外の交通手段が埋まり、最後にメトロが満員になることを想定している

 

ところが、通期パスの利用制限が撤廃され、さらに当日券が販売されることによって、事実上この目的は形骸化している 。

それどころか、通気パスの利便性を下げてまで (9-11時の入場制限)朝の混雑を回避しようとしていたのに、方針転換後の制度では朝9時の来場を促すようなシステムになっている。

9時に来場予約をした人は、当日券の来場者よりは優先されるが、来場予約をした人同士の来場順は恐らく先着順だろう。すると、せっかく来場予約をしたにも関わらず、当日枠を確保するために朝から並ぶ、という本末転倒な事態が発生する。

同じく来場者輸送計画より。来場者の入場時間帯をコントロールするための入場時間予約制度だったはずだが・・。そして来場の予約時間は9:00-, 10:00-,11:00-,12:00-,17:00-だが、15時台のピークの来場者はどの時間帯の枠で入場するのだろうか。

9時に先着しようとする人は、当然それよりも早い時間帯にゲートの前に並ぶことになる。そうなると、朝の通勤ラッシュの時間と丁度バッティングし、万博に来場しようとする人だけでなく、大阪市で昼間生活する人々に影響が出てしまう。2年間に渡って、5回更新されていた来場者輸送計画は、始まる前から頓挫してしまっている。

 

そもそも疑問だらけの輸送計画

 愛・地球博のメイン交通であったリニモや地下鉄東山線はお世辞にも十分な交通網であったとはいえないし、自家用車の乗り入れも同様にパークアンドライドが採用されていた。この点は今回の万博と類似する。

 

しかしながら、パークアンドライド駐車場は周辺と空港の6箇所合計9,600台分が用意され、リニモも二方向からアクセスが可能、会場が長久手と瀬戸の2会場に分散される、そして公式では推奨されていなかったが、周囲の民間駐車場を使うケースも多かった

( 最大の入場者を記録した9月18日では、281,441人の内37.1%が鉄道、6.2%が最寄駅以外からのシャトルバス、2.7%が路線型直行バス、18.8%が自家用車のパークアンドライド、7.1%が団体バス、そして全体の28.7%が公式の想定していない方法で来場しており、その大半を送迎や民間駐車場が占めた。)

 

今回の万博のP&Rシャトルバスは舞洲、堺、尼崎の三箇所だけであり、会場の隣の舞洲が3,450~6,240台 (団体用バスの受け入れに応じて変動)、南大阪の堺が2,000台、大阪と接する兵庫県の尼崎が3,000台で、合計9,450~11,240台と台数だけ見れば愛・地球博を上回っているように見える。しかし、堺も尼崎も駐車場は市内の端にあり、ここにわざわざ車を停めてバスで会場に向かう人々がどれくらいいるのか、甚だ疑問である。

そして、想定以上の来場者輸送を支えた民間駐車場は、今回の場合全く活用できないため、愛・地球博と同等の輸送力ではまるで足りないことは明白である。

愛・地球博のP&Rシャトルバス (左)と大阪・関西万博のP&Rシャトルバス (右)の比較

そして何よりも、今回の万博では、全てのバスと舞洲駐車場を利用する自家用車が此花大橋を経由する。理由は明らかではないが、来場者輸送計画に夢咲トンネルは含まれていない (タクシーがどちらの経路を使うのか不明)。

さらに会期中の一般車両については、咲洲-夢洲間の一時停止の禁止や夢洲外周道路の通行止で対処するようだが、これで対処できるか疑問である。関空からの白タクの規制を強めているとはいえ、万博期間中のライドシェアの緩和まで行っており、これらのドライバーが規制を知っているのか、また守るのか、という懸念がある (万博期間中のライドシェアの必要性については今回は詳しく扱わないが、そもそもタクシーによる会場への想定輸送人数が22.7万人中2150人しかいない時点で、万博によるタクシー不足が起こるとは思えない)

万博期間中の交通規制 (大阪府警より)

桜島シャトルバスについては、現時点で少なくともネット上に現金が使えるかの情報が落ちていない (会場内の周遊バスe Moverは完全キャッシュレス)。桜島シャトルバスはピークの時間帯は5分に1本間隔で出るらしいが、現金主義の年配世代が利用すると、完全キャッシュレスだと乗れなくて降りるまでに時間がかかり、現金対応だと支払にもたつくと、どちらにしても短時間でバスを矢継ぎ早に発進させる障害になりそうである。

 

そもそもこのバスの定員は77人らしく、1時間あたり12本での輸送人数は1,000人弱。計画通りに運行しても、午前中の輸送人数は4,000人に満たない。来場者輸送計画における一日の最大運搬人数は1.86万人だが、会期後半の便数の多い方で計算しても、一日当たり1万人弱しか運べないのだが、朝は1便2台で運行するのだろうか・・・。

(4/2追記: どうやら朝は最大1便5台、一時間60台ペースで運行するようだ。)

 

会期後半 (右)で計算して、便数は1日120本程度。1.8万人を輸送するためには、1便に150人を詰め込む計算だが・・・

KansaiMaaSアプリ上で確認したところ、開幕まで1ヶ月を切った3/16現在でも、開幕日の8時台の席を取ることができる。

開幕日は多くのイベントが集中するため混雑が予想されているが (この点は、平準化に成功していると言える)、14000人に満たないであろう枠が埋まっていない。予約なしで乗車する人が大半なのだろうか。その場合、桜島駅ではバスに乗れない人が続出しそうだ。

 

(全ての一般枠は少なくとも99席以上空いていた。なお、検証したところ車いすの枠はバス一台につき2人程度のようだ)

(4/2追記: 4/2時点だと、開幕日の8時台は売り切れていた。それ以外の時間帯の一般座席は依然99席以上開いていた)

開幕日の午前中は東西ゲートの予約が一杯のはずだが、西ゲートから来場希望の人はどうやって会場まで行くつもりなのだろうか

以上より、桜島シャトルバスはメインの交通手段の一つに数えていいか疑問である。

特に、西ゲートから9時台に来場予定の人は、一体どうやって辿り着く予定なのだろうか。予定通り桜島から15分で着くとして、8時10分の始発から9時台に会場に着くのはわずか19便、1便1台だとすると1,500人程度しか輸送できない。

 

各ゲートの1時間当たりの来場枠は公表されていないが、流石に1,500人ということはないだろう。しかし、例えば1万人だとして、残りの8,500人はほとんどがP&Rシャトルバスで来ることになる (団体バスは10時以降に到着するものが多く、タクシーではそんなに輸送できないだろう。むしろ、タクシーが殺到すると、バスの運行に影響が出る)。そんなに駐車場が使われるのだろうか?

(4/2追記: 一時間当たりの最大輸送人数は4000人。ただし、これでも依然P&Rシャトルバスをフル活用しないといけない)

 

利用者の少なそうな桜島シャトルバスであるが、客がいる・いないに関わらずバスはダイヤ通りに運行しなければならない。舞洲に自家用車が集まる中、1時間12便のシャトルバスとP&Rシャトルバスが運行する。シミュレーションでは舞洲での渋滞は発生しないことになっている。事故が起こらなければ良いが・・・。

駐車場料金の調整により、シミュレーション上は渋滞は発生しないらしい

先ほども述べたが、来場者輸送計画では、シャトルバスやP&R駐車場が限界まで活用されることが前提であるが、P&R駐車場の料金設定や桜島以外のシャトルバスの本数が極端に少ないこと、及びシャトルバスのキャパシティを考えると、相対的なメトロの負担は想定を超えるのではないかと危惧している。

つまり、協会が想定する22.7万人よりもはるか手前の段階で、メトロに来場者が集中する可能性が高い。

 

〇日来場者数が、10 万人程度までにおいては、駅シャトルバス等の輸送力及び万博 P&R駐車場の収容能力に比較的余裕があることから、愛知万博ベースの機関分担率で輸送が行われると考えている。

〇しかしながら、日来場者数が、11.9 万人に達すると、まず、駅シャトルバス等の輸送力が、夢洲交通ターミナルや各駅バスターミナルの受け入れ容量及び各バス事業者が運行できるバスの便数等から、限界に達する。

〇さらに、日来場者数が、18.6万人に達すると、万博P&R 駐車場の自家用車が受け入れ限界に達し、22.7 万人に達すると、団体バスも受け入れ限界に達する。

〇こうしたことから、日来場者数が、おおむね 20 万人を超えたあたりから、輸送における鉄道の割合が加速度的に増加するため、それに備えた対策が必要となる。

(来場者輸送計画より、再掲)

大阪メトロは1日に約230万人程度が利用すると言われており、需要集中は大阪市内で働く多くの人々に影響を与え、経済的にも損失が出る。万博の経済効果を持ち上げる人もいるが、経済効果はこうしたマイナス面を考慮せず、ただ動いた金額によって決まる値で、全く当てにならないことは過去に何度も述べた。

 

今回の方針転換は、元から怪しかった来場者輸送計画をさらに破壊し、メトロの通勤ラッシュの通勤ラッシュ時間帯への集中をより招く結果になってしまうと思われる。

 

通期パスの利便性は向上するのか

 今回の変更によって、通期パスの1. 毎日9:00-10:59までの来場制限、2. 10月4日-13日の来場制限がそれぞれ撤廃された。また、当日枠の採用によって、予約が必要なパビリオンも通期パスで毎日入れるようになったかのように見える。

 

しかし、来場予約枠が3つしかないという最大の欠点は改善されていない

今回の変更によって、通期パスでも朝9時から来場できることにはなった。もし朝9時から来場できれば、2ヶ月前や7日前抽選を取らずとも、パビリオンの登録を行うことができる。一見すると、通気パスによって予約が必要なパビリオンを楽しむ余地が増えた用に見える。

しかし、そのためには朝9時の来場予約を取らなくてはならない。今までの予約状況を見ると、まず真っ先に朝9時の時間帯が埋まっており、今後当日登録の仕様が周知されればされるほど、益々朝9時の枠は埋まりやすくなっていくと推察される。

 

そうなると、例え1枠を常に残していたとしても、前日や二日前に朝9時の枠を取ることはほぼ不可能だろう。朝10時の枠が空いていればまだ良いが、11時以降しか空いていなかった場合、結局仕様変更の恩恵を受けることはできない。

 

10月4日-13日の来場制限の撤廃は、単純に使える日が増えたので、利用者にとってはプラスだが、前述の通り本来の閉幕期の混雑回避という目的を完全に見失っており、利用者が増えることが社会にとってもプラスとは言い難い状態になっている。

 

結局、通期パスの有効な使い方としては、仕事終わりに毎日通うために使うか、リタイアして時間のある人がのんびりと使うかくらいで、上記のいずれにも当てはまらない人にとっては、単純に割引の一日券を購入した方が利便性が高いだろう。

実際、愛・地球博では、前者の使い方で各国のレストランを巡るのが地元民のちょっとした流行になっていたようだ。最も、今回の万博では毎回入場登録が必要なので、その度に不便さを感じることにはなるだろう。

 

(ただ、ここまでの大転換を大々的なアナウンスなしで決めた万博協会なので、もしかしたら来場時間を登録していなくても顔認証ゲートを潜ることができるようになるかもしれない 。その場合、通期パスの利便性は大幅に向上する。その時の混雑に目を瞑りさえすれば。)

 

なお、同時に会期の初期に入場した人は6,000円引きで通期パスを購入できるようになったが、愛・地球博でも似たような (一日券の値段との差額を支払うことで、全期間券に変更できた)制度は存在しており、あくまでリピーターを増やすのが目的なので、別に通期パスを投げ売っているわけではない。

(ところで、割引率を最大にするなら、開幕後に3,700円の夜間券を購入して入場するのが最も効率がいいが、どの券であっても6,000円引きで購入できるようになるのだろうか。)

 

当日券によって気軽に万博を楽しめるのか

 次に、当日券を利用する人のことを考えてみよう。ターゲットは、主にパソコン・スマートフォンになれていない年配世代と、海外旅行者になるだろう。

当然当日券の利用者は、ほぼ万博IDを持っていない。そのため、P&Rシャトルバスは使えない。また、万博IDは登録できないのにKansaiMaaSは使えるという人はほぼいないだろうから、桜島以外の駅からのシャトルバスは利用できない。

 

さて、なんとか会場に辿り着き、当日券を入場制限に引っかかることなく購入して、無事に入場できたとする。テレビで宣伝しているようなパビリオンに並ぼうとしてから、予約が必要であることに気が付く人もいるだろう。開幕1ヶ月前になってようやく公開された開場地図によると、会場内の予約機は9箇所。予約機を見つけて当日登録をしようとしても、朝一番を逃すと、人気のパビリオンの予約は既に終わっているだろう。

 

では予約が不要な海外パビリオンはどうかというと、タイプAについては開幕時に入場できるパビリオンが何棟あるかもわからない状態である。3/14日にようやく2カ国の内装工事が終わったことが報じられた (ハンガリールクセンブルク。特にルクセンブルク間に合う筆頭候補だと思っていたので、驚きはない)。

一方で、未だ建設工事が終わっていないパビリオンは一つや二つでは済まないだろう。 14日時点で建設工事の完了証明が交付されたのは12カ国らしいが、建設工事の完了証明を申請するタイミングは国によって異なるので、流石に建設工事自体が終わっている国はもう少しあるとは思う。とはいえ、未だに建設工事を行なっている国が、これから1ヶ月足らずで内装工事、展示工事、スタッフの訓練までを終えて開幕を迎えることは不可能である。

 

全てのパビリオンが開幕日までに完成しないのは万博では珍しくないが、二桁以上のパビリオンが完成しなかった万博は聞いたことがない。ここまで来たら、どこまで記録を伸ばせるかに楽しみを見出す段階に来ているように思う。

 

結局、予約が不要で工事が終わっているタイプBやタイプCの小規模パビリオンを回るか、大屋根リングに登るか、日本側が出店しているレストラン (当然海外パビリオンに付随するレストランが営業している可能性は低い)を回るかくらいしか、開幕直後に確実に楽しめると断言できるものはない (その大屋根リングすら、  一度に登れる人数には1.5万人の制限がある)。

 

万博のPRが足りていないという意見もあるが、正直大々的にPRできるものはほとんどない。シグネチャーパビリオンや企業館など日本発注のパビリオンは入館できる人数が限られるので、あまりPRし過ぎても却って入れない不満を溜めてしまうし、タイプAパビリオンはできていないので宣伝できない。小規模の海外パビリオンは、非常に申し訳ない言い方になるが、基本的には数合わせで、メインにはなり得ない。大衆向けに宣伝したところで興味を惹かれる人は極々限られるだろう。

こう考えていくと、今の大屋根リングに中心に据えたPR戦略はある意味必然なのかもしれない。大屋根リングに価値を感じてもらうことが、来場者にとっても、万博協会にとっても都合がいいのである。

 

(ところで、海外パビリオンがこうも完成していない中、開幕日にAdo氏のライブに行く人はどこで時間を潰すのだろう)

 

あとは野となれ山となれ

 以上のように今回の方針転換は、特定のパビリオンを楽しみにして数ヶ月前から来場予約と抽選申し込みをしていた万博に積極的な層にとっては当選確率が激減し、確保できなければせっかく来場予約をしたのに朝から並ぶ羽目になり、毎日通う万博マニアにとっては利便性が特段向上せず、当日券を使うライト層や年配世代、外国人観光客にとってはゲート前で追い返されなかったことはプラス要素ではあるものの、当日あらゆる行動が制限される (ゲートで追い返されて他の観光地を回った方がい良い可能性すらある)と、ほとんどの来場者にとっては特に得をもたらさない。

 

一方で万博協会は、達成が不可能になった前売りの目標と来場者輸送計画を放棄して、会期後半に来場者が伸びてチケット販売目標を達成するという可能性を手に入れた。

 

確かに、以前の予約システムでは、会期後半の伸びは期待できなかった (むしろ、それを抑制するための予約システムだった)。そのままでは赤字確定であり、また実際の運営上、会場まで来た人を突っ返すのは現実的ではない (クレーム対応する人員も足りないだろう)ので、遅かれ早かれ当日券は販売されていただろう。

 

しかし、大層に掲げた「未来社会の実験場」というコンセプトは、こんな行き当たりばったりで達成できるものなのだろうか?

 

大阪・関西万博におけるコンセプトは、「People's Living Lab(未来社会の実験場)」である。このコンセプトは以下の一連の活動を通じて実現される。 大阪・関西万博では、会場を新たな技術やシステムを実証する、「未来社会の実験場」と位置づけ、多様なプレーヤーによるイノベーションを誘発し、それらを社会実装していくための、Society 5 . 0 実現型会場を目指す。 例えば、人の流れをAI等の技術でコントロールすることによる、会場内での快適な過ごし方の実現や、 キャッシュレス、生体認証システム、世界中の人と会話できる多言語システムの実装等が想定される。 また、このコンセプトを実現するために重要になるのが、Co-Creation(共創)である。ここでの共創とは、 多様な参加者と共に大阪・関西万博を創りあげることを意味する。 大阪・関西万博では、会期前から大阪・ 関西万博に関わるネットワークを広げていくことを通じて、会場内外からこの壮大な実験に参加して未来社会のデザインを共創することを目指す。

 

筆者は、一貫して万博がガラガラになることはないと考えている一方で、来場者目標は達成できないと考えている

 

過去の例と、日本人のお祭好きを考えると、これだけ国家のリソースを割いているイベントの1日の平均来場者が8万人を下回ること (会期中の来場者が1,500万人以下になること)はないだろう。1日8万人は目標の半分の人数であるが、それでもUSJや東京今日ドームの一日の来場者数を超えており、会場は大盛況に見える。

 

だが、本記事で検討したように、その目標の半分の人数でも来場者をスムーズに会場に運べるかは大いに疑問である。メトロ以外の輸送手段が本当に来場者輸送計画上の数字を出せるかはかなり怪しい。そうなると、メトロの負担増は避けられない。

 

万博協会は最近やたら愛・地球博と比較してチケットが売れていると強調するが、一体何を言っているのかと言う気持ちになった。

 

目標1,500万人の愛・地球博の前売り計画を、目標2,820万人の今回の万博が超えるのは当たり前である。

そして、何度も強調するが愛・地球博の実績2,204万人は、会期後期の長蛇の列と、協会の用意した輸送力の超える来場者を運搬した周囲の民間駐車場の存在なしでは達成し得なかった

 

今回の方針転換によって、当日券によって一部の予約不要パビリオンに待機列ができる可能性が高まった (待機列は、会場のリソース消費を抑え、本来会場で捌けないはずの来場者数を捌くことに貢献する)。しかし、輸送力については、何も増強できておらず、むしろメトロへの集中を招き、却って大阪市民の生活を圧迫することになる。

 

万博協会は口コミによる来場者の増加を期待しているらしい。確かに、短期的な印象操作によって、大衆が煽動される事象は、この一年間に限っても何度も目撃された。

今後、今以上にテレビ、ネットの両方から万博のプロモーションがされていくのは間違いない。その時、万博に殺到するのか、それとも低調なまま終わるのか、どちらに転ぶかは誰にも予想ができない。

だが、万博に愛・地球博の閉幕期なみの人が殺到した場合、それを捌くリソースがないことは、他ならぬ万博協会何年にも渡って発信してきた。今回の方針転換は、それに真っ向から反するもので、円滑な来場者輸送と来場者目標 (チケット販売計画)の達成は、二律背反の状態になってしまっている。

 

後は野となれ山となれ。2030年に開業予定のカジノIRを前に、大阪市民の生活をかけたギャンブルが始まろうとしている。