統一地方選と大阪IR

維新の大勝と大阪IRの正式認定決定

 4月9日に行われた統一地方選の大阪での結果は、維新の会の候補者が府知事、市長で圧倒的な得票数で当選、市議会も単独で過半数を占めるなど、維新の圧勝と呼べるものであった。

 

そして当ブログで追いかけてきた大阪IRについても、国の認可が正式に決定した。

 

非維新の候補者は、IRを大きな争点に挙げていたが、結果的には前回危惧したと通り自滅に終わった。(最も、審査決定のスピードから、統一地方選の結果がどうであれ認可が決まった可能性の方が高いと思うが)。

 

今回の結果は正直予想通りであった。維新の会の過去の選挙結果を調べると、大阪市においては約60万票を自在に振り分けることができるということが、以前より指摘されている。

www.nikkan-gendai.com

 

ならば、大阪市で維新と戦うためには、最低でも投票率60%は超えないと話にならない (2020年の大阪市廃止住民投票の投票率は62.35%)。非維新の候補者がこの点をどれだけ真剣に考えていたのか、今回の選挙活動からは見えてこなかった。

 

夢洲にディズニーランドを誘致」という与太話には、乾いた笑いしか出てこなかったし、大阪IR計画の問題点についても精査し切れておらず、結局「大阪にカジノは要らんで」という、感情論の域を出ていなかったと見受けられた。

 

大阪市廃止住民投票は、賛成する・しないの二択であったため投票率が60%を超えたと思われる。しかし、選挙では維新をよく思わない=対立候補に投票、とはならない

「維新を特にいいとは思わないが、他の政党もいいとは思えない」という人々も多いだろう。それを加味すると恐らく、市長選や府知事選で維新に勝ちたいのなら、投票率は70%近くが必要だろう。

 

もし、「維新の問題点を広く世間に知らしめれば、自然に政治的関心が高まりこの水準の投票率に到達する」と考えて選挙戦を行っていたとすれば、それはお花畑思想と言わざるを得ない。

 

日本維新の会維新の馬場代表は、選挙における女性候補の擁立について語った会見において、

私自身も1年365日24時間、寝ているときとお風呂に入っているとき以外、常に選挙を考えて政治活動をしている。それを受け入れて実行できる女性はかなり少ないと思う。

と発言した。発言の内容が、公党の代表かつ現職の国会議員にふさわしくないのは言うまでもないが、しかしこのような発言が出るほど、維新は選挙対策を重視しているのだ。その相手に勝つ手立てがないのなら、そしてあの程度の理解ならば、わざわざIRを大々的に争点化しないでもらいたかった。

選挙戦で維新はIRを大きな争点にしていないが、対立候補が大きな争点としていた選挙で圧勝した以上、「一定の民意は得た」と言われてしまっても仕方がないし、そうなることは選挙前からわかっていたことである。

 

現状、大阪とその周辺で、維新以外の候補者が不利なのは間違いない。そして、その最大の要因は、ふわっとした民意を汲み取っている訳ではなく、泥臭い票固めである。しかし、不利な立場にいるならば、その不利を自覚し、それ相応の戦略を立てなければ、ただ敗戦を繰り返し、より維新の支配力を強固にするだけである。

 

MGM目論み通りに進む

 大阪市議会でも維新の会が過半数をとったことで、大阪府大阪市はIRに対して公金を事業者の望むままに支出できるようになった。事業者としては、今の状況ほど美味しい状況はないだろう。

 

振り返れば、MGM・オリックス以外の事業者が撤退したからは、MGMのなすがままに大阪は服従してきた。

大阪IRの区域整備計画の要求水準が大幅に引き下げられた直後の2021年の6月、MGMのCEOビル・ホーンバックル氏は、投資家に対して次のように説明したとされている。

 

・コロナ禍がもたらした日本IRの遅延により、大阪側が当初要求していたMICE施設の広さとホテル客室の数などの「条件を大幅に下げる」ことに成功した。

・我々の中核事業であるゲーミングを中心に構えることができる。

・市には『生産性があり、意味がある部分はこれだ』と言うチャンスがあったので、現在はリターンが良くなったと思います。

agbrief.jp

 

 

また、次の発言は、同じくビル・ホーンバックル氏が2022年第四四半期の決算説明会の時に語ったものである。

MGM Resorts has presented a compelling offer with our partner, Orix, to develop an integrated resort, which will develop international tourism and growth to that region. We're extremely excited for the ROI opportunity in a market in which we may be the sole operator for some time in the future.

(拙訳)

MGMリゾーツは、私たちのパートナーであるオリックスとともに、統合型リゾートを開発し、その地域への国際観光と成長を発展させるという魅力的なオファーを提示しています。今後しばらくの間、私たちが唯一のオペレーターとなるかもしれない市場で、ROIの機会を得ることに非常に興奮しています。

 

このホーンバックル氏の見立て通り、長崎IRは認定が先送りされ、大阪が唯一の認定事業になる可能性が高くなってきた。

ところで、上記の発言を並べると、MGMが大阪で何をしたいのか、自ずと見えてくるだろう。IRの名目上の主役であるMICEや、大規模なインバウンドのために必要なホテルの規模は、削減できるのであれば削減したいもので、中核事業はゲーミング=カジノであり、そして期待しているは独占的な市場である。

日本の周辺にはマカオシンガポール、フィリピン、韓国などに既にカジノ市場が存在するにも関わらず独占的な市場に期待するということは、国際的な競争は目指さず、ローカルな日本人の支出を独占することが目的ということである。

 

「IRでインバウンドが~」とか「カジノはIRの一部〜」などと言う幻想はいい加減捨て去った方が良い。 大阪IRのターゲットは日本人で、中核施設はカジノ。これを否定することと、「ノウハウを持つ民間企業が行う計画だから大丈夫」論は両立できない。他ならぬ事業者がそう言っているのである。

 

大阪IRによって大阪府市に税収が入るということは、日本人が他のこと使うことのできた金を特定の事業者に集約させ、その一部を取っているだけなので、日本全体からしたらプラスにはならない。

カジノ事業では客と事業者との間で直接的な金の移動が起こり、その金額とモノ・サービスの消費が比例しないので、経済波及効果の最も乏しい事業であると言える (事業者の提示する経済波及効果1.1兆円がどれだけ意味のない数字であるかは、過去に書いた通り)。

それが本当に大阪の成長戦略の柱になるというならば、これほど大阪の衰退を象徴する事例もないだろう。

 

ところで、MGMにとっては既にこれ以上ないほどに有利な状況であるはずなのに、何故さらに土壌改良費を大阪市に求め、さらに大阪市が事業地の賃料を、わざわざ「鑑定業者が提案してきた」と虚偽の発言をしてまで安くしようとしたのだろうか。

 

2022年第四四半期の決算説明会でホーンバックル氏は大阪IRのリターンについてこう答えている。

 

We're looking at a return on that project, we think can bring 15% plus in cash flow and then maybe then some, but it has to mature.

(拙訳)

このプロジェクトのリターンは、キャッシュフローで15%以上のプラスになると考えていますが、今後より円熟なものにする必要があります。

 

これがオリックスの言うところの「我々の倍近い数値」なのだろうか。キャッシュフローで15%というのがどの時点を基準にしているのか明確ではないが、最低でもMGMにキャッシュで年間300億円 (大阪IR全体に年間750億円)は入ると見込んでいることになる。カジノの売上に対して一番情報を持っているはMGMであることは間違いないが、これはオリックス曰く「アテにできない」数字だそうだ。

 

現在50億ドルをこえるキャッシュを持ち、ラスベガス市場は絶好調、さらに2022年大赤字だった中国市場の回復が見込まれるなど、かつてないほど良い状態にあることを投資家に宣伝しているMGMであるが、この上なぜ、800億円程度の土壌改良費 (MGMの支出としては320億円程度)を求め、この履行を撤退条件に含めているのか。

 

その理由は、投資家に説明するほど、実態の債務状況は芳しくないことが原因だろう。MGMの長期負債残高はここ4年で減り続けているが、実態はアメリカ国内のカジノ施設を全てセール&リースバックしており、これによって多額の現金を得た一方で、賃料の支払い額は膨張し、2022年度にはその額は年間2,000億円を超えている。さらに2022~2023年にかけて、二つのカジノホテルを完全に売却している。

 

ラスベガスがこのままの売り上げを保ってくれれば良いが、来たる景気後退期には売上が確実に下がる。さらに今MGMはニューヨークの新カジノライセンスの入札に参加しており、中国部門にも、従来のVIP向けの戦略からマス層を主軸にする戦略に切り替えるにあたり、更なる投資が必要となる。

 

これらの出費を出しながら日本に出資する上で、費用はできるだけ削りたいと言うのがMGMの本音であろう。短期的にはカジノを完全に売り払って現金を得つつ賃料を減額することはできる。

大阪IRの開業は、最短で2029年度末を予定している。資金が無事繋がり開業できたとして、その収益は、果たしてMGMが考える水準か、それともそれはオリックスの言うような「アテにできない」数字なのか。開業は最短でも約7年後。それ以上に伸びる可能性を計画は認めている。誰が正しかったのか分かるのは、随分と先のことになる。

 

終わりに: 大阪IRの審査結果を眺めて

 大阪IR への審査結果が開示され、総合点は6割5部と評価基準を上回ったが、来場者数の推計方法については精緻化が求められたし、カジノ施設の具体性が欠けていると指摘されている。それでも合格点に達したのは、そもそも国が定めたIRの基準や法令、理念にも問題があり(シンガポールという国の特性を無視して、施設の規模のみを比較するなど) 、その中では一定の評価を得られる計画であったからだろう。他方、地盤問題については、例えば次のように書かれている

 

特に準備段階においては、大阪府・市がIR整備の工程上重要な役割を担うが、大阪市が進める土壌対策など課題が顕在化している現在の状況に鑑みれば、工期等の遅れが生じた場合の対応など、大阪府・市との連携に関しては、後発事由で発生の所要費用の分担を含め、IR事業者として構成員間及び大阪府・市と円滑な意思疎通・合意形成の下、着実な対応を求める。

(「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」 審査結果報告書23ページ)

 

 

港湾局の説明では、大阪市が支出する必要があるのは建設汚泥処理の増嵩分であり、その他の支出については、土地管理者の義務としては必要がないとしている。この書き方だと、液状化対策費などを含んだ支出について、国からお墨付きが出てしまったようだ。

それが正当な支出かどうか、チェックする機能はもはや大阪市議会にはない。議会軽視は何も維新だけの問題ではないが、こういった本音を堂々と言ってしまうくらいには、維新には議会とは邪魔なものだったのだろう。

 

 

 

 

基本協定書によると、IRに「市が合理的に判断する範囲」で公金が支出される。大阪府民がそう望んだと言われてももはや文句は言えない。

これが我々の選んだ道である。それでも維新に立ち向かうのであれば、自戒を込めて言うが、自分の都合の良い情報に安易に流され、決まったフレーズを繰り返すような真似は最低限しないように。それは維新がやっていることと全く同じである。